あたらしい家中華

酒徒 中華料理愛好家
ライフ 中国 グルメ

 きっかけは、大学1年生の夏休みに旅した北京だった。

 当時、中国の歴史学を志していた私は、紫禁城や頤和園といった憧れの史跡を巡り歩き、夢に見た光景に胸を躍らせていた。その合間に何気なく入った街角の食堂で口にしたのが、運命の水餃子だ。艶やかな皮の弾力、香味野菜の鮮烈な香り、あふれる肉汁。雷に打たれたような衝撃を受けた。

 さらに目を引いたのは、日本では見かけたことのない、未知の料理がずらりと並ぶ品書きだ。気がつけば、私は歴史よりも料理を追いかけていた。

「もっと食べたい。もっと知りたい」

 その思いに突き動かされ、学生時代は幾度となく中国を旅し、やがて北京に留学、仕事でも迷うことなく中国畑を選んだ。若気の至りとはいえ、その熱量には自分でも呆れてしまう。ただ、それほどの磁力が、本場の中華料理にはあったのだ。

 その後、北京、上海、広州と移り住み、通算で10年以上を中国で暮らすことになった。願ってもない中華料理三昧の日々を送るうちに、「中華料理」という言葉がいかに幅広く、いかに多様なものを指し示しているかを知った。そして、気に入った料理について調べるたびに、その一皿が生まれた背景には、その土地ならではの風土や文化が深く関わっていることを実感させられた。そう、料理は歴史そのものなのだ。

 なかでも心を奪われたのは、各地の農村や街角の小さな食堂で出合った家庭料理だ。身近な食材を使ってさっと仕上げた料理は、見た目こそ地味だが、いくら食べても後味が軽く、どこかホッとする穏やかな味わいだった――「これも中華料理なのか」。目から鱗が落ちる思いだった。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : ライフ 中国 グルメ