長嶋さんは1歳上だけど、僕のほうが先にプロ入りしていたので、“シゲやん”と呼んでいました。初めて会ったのは1958（昭和33）年の明石キャンプでした。東京六大学野球のスターが来るとあって、明石の駅は始まって以来の黒山の人だかり。「これが六大学のスターなんだ」と驚かされました。

　グラウンドで軽やかにウォーミングアップし、ランニング姿から全然違った。カモシカのように軽やかでね。当時のジャイアンツは川上さんがまだ現役で、戦争帰りの人も沢山いた。だからこそ、ミスターに鮮烈なイメージを抱いたのでしょう。

　ミスターといえばデビュー開幕戦の4打席連続三振が有名ですね。あの時のカネさん（金田正一氏）は「プロの意地に懸けて」と敵意むきだしでした。球は速いし、カーブが凄かったし、普段と全然違うピッチング。まさに力でねじ伏せた。ただ、ミスターも大したものです。三振しても臆することなく向かっていった。当てに行くようなスイングは一つもなくて、4打席とも逃げずにフルスイング。新人ができることではありませんよ。

　1年目のミスターは、ホームラン王、打点王、打率は2位で3割5厘だったかな。まさに新人王に値する成績だった。そのシーズンだけでなく毎年毎年、打撃成績各部門で上位に絡んでいた。世間は天才と思っていたようだけど、ミスターは隠れたところで努力をしていました。

　歳が近いからか後楽園球場のロッカーはずっと隣同士。遠征先の旅館でも僕の隣がミスターの部屋でね。試合が終わって帰ってくると、隣からビュンビュン、ビュンビュン、バットを振る音が聞こえてくる。あまり打てなかった日の晩は、ミスターが裸で素振りをしているんですよ。その音が聞こえてくると、「ああ、またやってるな」と思ったものです。不振を翌日に持ち越さないためにも、自分が納得するまで振っていたんでしょう。

　王貞治も同じです。当時の巨人のレギュラーは皆、見えないところでも練習をしていた。だから、遠征先の食事はベテランが先に食べるのが普通だけど、みんな練習しているから、若手が食べた後に食卓についていた。そういうところに当時のジャイアンツの強さの秘密があったね。

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