自分自身の原罪を生涯にわたって見つめ続けた
日本人ファーストという言葉がこだまする昨今、ふと森崎和江のことを思い出した。
2022年に95歳で没した森崎は、生涯において紀行文や評論、ノンフィクション作品など70冊を超える著作を残した。代表作としては、炭坑で働く女性への聞き書きをまとめた『まっくら』、戦前に海を越えて中国や朝鮮、東南アジアなどに売春婦として売られていった女性たちの生涯を追いかけた『からゆきさん』を挙げられる。
今年1月に森崎の評伝である本作が出版されていたことを知り、この夏に読んだ。そして森崎の抱えていた「問い」が何であったのかを、そして、それが何に根ざしていたのかを教えられた。
著者の堀は森崎の生涯をこう評している。「植民地朝鮮で生まれ、日本という国の原罪、そして自分自身の原罪を生涯にわたって見つめ続けた人生であった」と。

森崎は日本が植民地としていた朝鮮で生まれ、家には朝鮮のオモニ(乳母)や姉(ネエ)やがおり、そのぬくもりの中で育った。しかし、次第に植民地の矛盾に気づくようになる。薄汚れたチマチョゴリを着て製糸工場で働く少女たちの恨みを含んだ哀しげな瞳。仲良しだった朝鮮人の少女が囁いた「私たちは日本が負けるように深夜お祈りをしている」という告白。17歳で初めて日本に渡るが、どうしても、自分の国として馴染むことができない。自分は日本人なのか。日本とは何なのか。敗戦後は強い原罪意識に苛まれて苦しんだ。
ようやく詩を書くことで精神のバランスを保ち、結婚して子どもにも恵まれるが、それでも日本という国に馴染むことができない。その煩悶から夫を捨てて思想家谷川雁のもとに走り、本格的に物書きとして身を立てるようになる経緯にも本作は触れている。
東北や沖縄などの辺境といわれる場所を歩いたのも、国家という概念に囚われる以前の人びとの有り様、近代化される以前の日本の姿を知りたかったからだった。
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