赤塚不二夫 バカ騒ぎも弟子の務め

エンタメ 娯楽

ギャグマンガ家、赤塚不二夫(あかつかふじお)(1935―2008)が生み出したのは『天才バカボン』、『おそ松くん』などの名作だけではない。彼の率いたフジオ・プロからは多数の人気マンガ家が輩出した。なかでも、大ヒット作『釣りバカ日誌』で知られる北見(きたみ)けんいち氏は「赤塚の弟子第一号」である。

 ぼくの初仕事は忘年会の買出しだった。といっても、買ってきたのはたったビール6本と子供用のシャンパン2本。それで夜中までみんな熱い映画論を戦わせていた。昭和38年暮れのことだ。当時、ぼくはまだデビューもしておらず、「少年サンデー」に原稿の持ち込みを続けていた。たまたま原稿を見てくれた編集者が赤塚番で、「君は真面目そうだから」と、赤塚先生のところで仕事しないかと紹介されたのだ。

赤塚不二夫 ©文藝春秋

 そのころの先生の自宅兼仕事場は、新大久保のアパートだった。四畳半に先生が住み、六畳がアシスタントの仕事場。後に『ダメおやじ』などで知られる古谷三敏さん、『総務部総務課山口六平太』の高井研一郎さんたちが机を並べていた。ぼくが入って4人、やがて6人になったから、まさにぎゅうぎゅう詰めだった。

 アシスタントといっても、古谷さん、高井さんは、フジオ・プロに来る前に、すでにデビューしていた。いわば助っ人であり、パートナーである。だから、弟子としてはぼくが第一号。その後に『トイレット博士』で一世を風靡したとりいかずよしや、『つる姫じゃ~っ!』の土田よしこなどが入ってくるが、一本立ちしたのはぼくの方が遅かった。結局、ぼくがいちばん長く先生にお世話になったことになる。

 赤塚先生はマンガを描くとき、まず古谷さん、担当編集者などと、アイデア出しを行なう。赤塚マンガの魅力である辛辣なギャグは古谷さんの力がとても大きかった。キャラクター作りは高井さん。赤塚先生が口でキャラクターのイメージをしゃべったのを、高井さんがその場で絵にしていく。イヤミやハタ坊などはこうして作り出された。赤塚先生は映画でいえば、プロデューサー兼映画監督。出てきたアイデアやキャラクターを自在に動かし、鮮やかにマンガの形にまとめていくのである。

北見けんいち氏 ©文藝春秋

 ぼくの仕事はというと、最初は原稿用紙の切り出し。当時はマンガ用の原稿用紙など売っておらず、大きな紙を包丁で原稿の大きさに切りそろえていくのである。そして鉛筆で枠を描いて、千枚通しで同じところに穴を開け、束ねていく。一生続くかと思うくらい膨大な量の原稿用紙と毎日格闘していた。それから、消しゴムをかけたりベタを塗ったりして、原稿を完成させる「仕上げ」。あまり大した貢献はしていないなあ。不思議なことに赤塚先生をはじめ、古谷、高井、ぼくと、みな大陸からの引き揚げを経験している。赤塚、古谷、ぼくが満州で、どこか都会的な高井さんだけが上海というのもちょっと面白い。

 フジオ・プロは仕事もイタズラも猛烈だった。シュークリームを買ってきていきなり顔になすりつける、というもったいない遊びが流行ったかと思うと、ズボンのベルトを外して相手を鞭打つ新しいゲームが開発される、というありさまだったが、赤塚先生は大喜びで、自ら率先して事に当たった。トップが喜ぶことをするのが弟子の務めだ。バカ騒ぎはどんどんエスカレートしたが、一番ひどかったのはエアガンの銃撃戦だろう。

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source : 文藝春秋 2008年9月号

genre : エンタメ 娯楽