昭和62(1987)年、俵万智(たわらまち)さんの歌集『サラダ記念日』はベストセラーとなった。口語を駆使した軽やかな歌風は、伝統ある結社「心の花」で培われた。早稲田大学で講義を聴講して以来のファンという俵さんが綴る、恩師・佐佐木幸綱(ささきゆきつな)(1938-)の魅力。
初めての歌集『サラダ記念日』がベストセラーになって、取材されたり、もてはやされたり、意地悪されたり、もう何が何だかわからないような日々を過ごしていたころ、師である佐佐木幸綱先生に言われた。

「君は、心のなかの音楽を聴ける人だから、何があっても大丈夫。自分の心に耳を澄ましていれば、道を見失うことはない」
そうだ、そうだった。私はまことに素朴に、心のなかの音楽を聴き、それを31文字で捉えてきただけなのだ。それさえ、しっかりできていれば、これまでと、これからは、何も変わらない。そう思うと、すっと平常心に戻れたような気がした。
以来、先生のこの言葉は、何よりも自分を励まし、支えてくれるものとなった。「心のなかの音楽」というのは、短歌に限らず、人生の岐路に立ったとき、耳を澄ますべきはそれ、という意味合いもあるように思う。

たぶん先生自身が、そうやってご自身の道を、切り開いてこられたのだろう。先生が編集長をつとめる短歌誌「心の花」は、明治31年(1898年)に佐佐木信綱が創刊した。今年で110周年を迎える、歌壇のなかでも最も古い歌誌だ。この7月には、ぶあつい「創刊110年記念号」が出された。
幸綱先生は信綱の孫であるが、私は、そんなことはまったく知らずに、学生時代に先生の講義を受け、すっかりファンになり、まったくミーハーな志を持って、「心の花」に入会した。
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source : 文藝春秋 2008年9月号

