昔から「算数」より「国語」が好きな子どもでした。原体験の一つに、和歌があります。短い文字列を介して、古代の人が感じた一瞬を、現代の自分が鮮明に読み取れる驚き……。その後、メディアアートに出会ったことで、数学を修め、コンピュータによるアートや広告を仕事にするのですが、やっぱり「言葉」をやってみたいと、朝日新聞社で〈AIと短歌〉をはじめて、2年になります。そしてこの夏、その成果が3つの企画として公開されました。
〈短歌AI〉は、入力される言葉をもとに、それに続く短歌をつくる「言語モデル」です。言語モデルとは、文字列によって表現された入力から、その続き=出力を生成するもの、と考えてよいでしょう。これを短歌の形でおこなう、つまり五・七・五・七・七の三十一文字(みそひともじ)で生成するのが、短歌AIです。
たとえば「揺れている>光の中で>」と冒頭の2句を入力すると、「見る夢は>過去の出来事>あるいは想起」といった残りの3句分の出力が返り、短歌(のようなもの)が完成します。
このモデルをまず論文の形で発表しました。その後、俵万智さんや永田和宏さんといった歌人の方々へおみせしながら、取材をする機会が得られます。その結果が、7月に記事として公開されました。「サラダ記念日」から「未来のサイズ」まで、俵さんの全歌集データから2300首余りを学習させた〈万智さんAI〉も開発しました。
「短歌を生成するなんて、嫌がられたり、怒られたりするのではないかしら」と、当初は心配していたのですが、これは杞憂だったようです。「より良い表現をさぐる伴走者」「やっていることは人と同じかも」といったAI像が得られ、それまで朧げだった〈AI=人でないものが短歌をつくる〉ことの意味や意義に輪郭を与えるような記事となりました。これは同時に「なぜ歌を詠むのか」といった〈人が短歌をつくる〉という行為にまで、あらためて問いを立てる試みにもなっています。
この一月後、「朝日歌壇」の入選歌約5万首を検索できるウェブサイト〈朝日歌壇ライブラリ〉が公開されました。単語や作者名による検索のほか、年代での絞り込みや頻出語の表示ができるコンテンツなのですが、ここへさらに〈AI検索〉という機能を備えています。これは〈入力された言葉と似た内容をもつ歌を検索する〉というものです。
たとえば「夏が終わった」という言葉を入力します。すると、〈この夏はビーチサンダル履かぬままこうして若さを置き忘れてゆく/上田結香〉〈友達と会えない二度目の夏が過ぎ少しカサカサしている私/松田わこ〉〈「かき氷売り切れ」の紙捨てるとき高校最後の夏が香った/赤松みなみ〉……このような歌が表示されました。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年12月号