気象庁AI戦略企画調整官が語った『AI気象予報』で何がわかるか

平原 洋一 気象庁AI戦略企画調整官

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 2022年の11月、中国の大手通信機器メーカー・ファーウェイ(華為)の科学者たちは、彼らが作り上げたAI気象モデル「Pangu-Weather」についての論文を発表しました。Pangu-Weatherは1週間先までの気温、風速などを地球全体で予測するものですが、特筆すべきこととして、世界有数の予測精度を誇る欧州中期予報センター(ECMWF)の予測システムよりも、自分たちのモデルの予測精度の方が良いと、彼らは主張していました。後に彼らの論文は査読を経て国際的な科学雑誌「Nature」に掲載されています。

 ECMWFはイギリスに本部を置く、世界を代表する数値予報機関の一つです。私も客員研究員として滞在したことがありますが、300人を超える科学者が集まって、世界最新鋭の研究開発が行われていました。対して、ファーウェイは通信機器などを扱う大手IT企業です。莫大な予算と計算資源があり、優れたAIの専門家がいることによって、要素によってはECMWFの予測を凌駕するものを、気象学の積み重ねとは違うところで作り上げました。

AIによる気象予測

 2022年は、ファーウェイの例に限らず、AIによる気象予測が急激に進化し、天気予報の歴史において画期的な年でした。最初の号砲として、その年の2月、半導体大手のNVIDIAがAI気象モデル「FourCastNet」を発表しました。この時点ではECMWFの予測精度には及ばないものでした。

気象庁の平原洋一氏 ©文藝春秋

 11月、中国発のPangu-Weatherが発表され、気象関係者に衝撃を与えます。さらに12月にはGoogleがAI気象モデル「GraphCast」を発表します。これがPangu-Weatherよりも精度が良かった。かつて、AI気象モデルによる予報は「研究段階であり、精度は良くない」というのが定評でしたが、ファーウェイとGoogleはその評価を一変させてしまったのです。

 ECMWFをはじめとした、気象関係者も手をこまねいているわけではありません。2023年にはECMWFによるAI気象モデル「AIFS」が発表され、今年2月には実運用が開始されています。

 気象庁でも今年4月、先端AI技術を活用した気象の予測・情報の高度化のための体制強化が図られ、AI気象モデルの先行的な開発にも着手しました。私は1996年に気象大学校に入学して以来30年近く気象分野に関わり、とりわけ、数値予報(後述)というスーパーコンピュータを使った予報の分野に長く携わってきました。今年の4月からは、新たに設けられたAI戦略企画調整官として、気象業務に関連するAI技術に関した企画立案などに携わっています。

 ただ、AI気象モデルも万能ではない。従来の数値予報モデルとの使い分けが大事であることがわかってきました。これは、数値予報モデルとAI気象モデルの仕組みの違いに基づくものです。どういうことか、それぞれの仕組みから説明しましょう。

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