皆さんは、電話の天気予報サービス177を利用されたことがありますか? 今から50年ほど前、私が子供の頃は、電話番号で177にかけて詳しい天気予報を聞いていました。テレビやラジオでの天気予報は、朝と昼と夜の3回ぐらいしか無かったので、とても貴重な情報源でした。
私が大学を卒業し、当時の財団法人日本気象協会に入職したのは1991年。今から34年前、新人の気象キャスターが原稿を読む最初の仕事は「177の天気予報」でした。つまり、177は当時、気象キャスターの登竜門だったのです。

私も新人研修を終えた直後、177の天気予報を担当しました。原稿を一字一句、間違えないように緊張しながら読んだ記憶があります。当時は肉声を録音して、各地の天気予報を流していました。今は機械で自動化された音声で流れる177の天気予報ですが、かつては天気予報や注意報が変更される度に、人が文章を読んで声を録音して流していたのです。極めて、アナログな仕事でしたが、新人の私にとっては天気予報の言い回しや話すスピード、正しいアクセント、発音などを学ぶために、とても重要なものでした。この経験が、天気予報を伝える基本になりました。
当時の177の天気予報を再現すると、
「ピンポンパンポン(音)気象庁予報部、午後6時発表の東京地方の天気予報をお伝えします。初めに注意報です。東京地方に乾燥注意報が発表されています。続いて概況です。今夜からあすにかけては、日本付近は移動性の高気圧に覆われて、穏やかに晴れる見込みです。予報です。東京地方、今夜は北の風、晴れるでしょう。あすは、北のち南の風、晴れる見込みです。降水確率は午前、午後、夜、共に0パーセントです。あすの東京の予想最低気温は3度、予想最高気温は15度でしょう。海上の波の高さは、東京湾で50センチ、ヘックシュン!」
私はひどい花粉症なので、最後までトチることなく話せても、くしゃみが出てしまい、もう一度、最初から録音し直したことがありました。
天気予報は24時間365日ということを再認識する場でもありました。泊りの勤務をしていて、大雨が降っていた時、東京地方に大雨注意報が出ました。もちろん、注意報が発表されたら177を録音し直すのですが、夜も更けた頃に大雨警報が発表され、再び録音し直して待機しました。ようやく雨がやんできたのは明け方、警報が解除になって、今度は解除の報を録音し直しました。本当に原始的な仕事でしたが、情報が変わるたびに録音し直す作業をすることで、正確な情報をいち早くお伝えする天気予報の重要性を学びました。昼夜を問わず、177の天気予報を頼りにしている人がいて、それで人の命や財産を守ることができるという素晴らしい仕事だと感じました。
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