勇敢で高潔な魂の声
小児神経学を専門とする女性小児科医が、47歳の6月に異変を感じる。身体がだるくて落ち着かない。ATMでお金をおろそうとしたら、4桁の暗証番号を思い出せない。外来勤務でも、患者さんと話がかみあわず、混迷の3日間を過ごす。脳梗塞による失語症状だった。
そして9月のある朝、「おはよう」と言ったつもりが、口からは意味の分からない音が出るだけで、身体の右側が麻痺していた。脳梗塞の再発である。
再発当初は、息子の名前を発語することもできなかった。言葉は頭の中にあるが、口から出た瞬間、変な音になってしまう。漢字を認識することは、かろうじて可能だが、ひらがなやカタカナは難しい。「青空」のイメージはわかるが、ふりがなをふることができず、「あおぞら」という正解を示されても、なんだか腑に落ちない。「ねこ」の「ね」の音を捉えようとして手こずっているうちに、「ね」は遠ざかる。単語ではなく、「あの塀の上にねこがいる。だから『ねこ』」と文脈の中に入れれば、苦労なく発音できたという。
著者は、すぐれた知性と強靱な意志の持ち主だ。自分の脳の中でおこっていることを冷静に分析し、言葉を取り戻す過程でどんなシステムが作動するかを記録しようとする。
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source : 文藝春秋 2020年2月号