磯田一郎 イトマン事件では一言も愚痴をいわなかった

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住友銀行元会長の磯田一郎(いそだいちろう)(1913―1993)は平成5(1993)年12月3日、80歳で亡くなった。頭取になると「向こう傷を恐れるな」と部下を叱咤し、「逃げの住友」から「攻めの住友」へ脱皮を図った。バブル最盛期に起きた元支店長による不正融資やイトマン事件では、収益優先の経営が厳しく問われることになり、平成2年に引責辞任、銀行家としての評価は、功罪相半ばする。斎藤英四郎(さいとうえいしろう)経団連名誉会長は晩年、磯田が最も心を許した財界人。※文藝春秋1998年12月号掲載

 

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 私が磯田さんと初めて会ったのは昭和51年、安宅産業が伊藤忠商事に吸収合併される前年でした。当時、磯田さんは住友銀行副頭取でしたが、新日本製鐵副社長だった私のところに来て、こう切り出された。

「いま安宅産業を伊藤忠商事に引き受けてもらうように話を進めています。そうなっても、新日鐵は安宅との取引を他の商社に持っていかないで、これまで通り商取引を続けていただけますか。その決意を伺えれば、私はこの話をまとめる決心がつきます」

 当時、銀行マンというのはお金を貸す立場なので威張っている人が多かった。しかし、磯田さんは非常に謙虚で、真摯な態度でした。決断力もあり、よく調査もされていました。磯田さんの人物と、銀行マンとしての緻密さに感銘を受けた私は、その場で「取引は続けます」と約束しました。以来、磯田さんとは公私にわたる交際を続けてきました。

磯田一郎 ©文藝春秋

 昭和61年、私が経団連会長に就任したとき、住友グループの推薦もあったので、磯田さんに副会長をお願いしました。そのとき、副会長には、富士銀行会長だった松沢卓二さんがすでに決まっており、金融界から2人の副会長を出すことに難色を示された方もいました。ある意味で異例の人事でしたが、磯田さんは私を助けて、よく働いてくれました。

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source : 文藝春秋 1998年12月号

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