長い苦境を脱して業績好調の邦画界。斯界の牽引役、東宝は2005年度の興行成績では上位10本のうち、9本を占めた。同社の会長は阪急・東宝グループの創始者である小林一三を祖父に持つ松岡功(まつおかいさお)(1934―)。次男でプロテニス選手として活躍した修造(しゅうぞう)氏が、家庭での姿を語る。
子どもの頃、平日の夕食時に家族が揃うということはありませんでした。父は仕事が非常に忙しいし、僕も小学校5年生で本格的にテニスをするようになってからは深夜11時半すぎに帰宅という生活でした。
その代わり、土日の夜は必ず家族5人で食卓を囲むのが習慣でした。しかも食事の時間が長い。母が長い時間かけてつくった料理を食べながら、3時間は夕食が続くんです。父や姉、兄が外での出来事をあれこれ話すのを聞いているだけでも、末っ子の僕には刺激的でおもしろかった。また僕が父にテニスの悩みを打ち明ける場でもありました。
父は挨拶、食事のマナーなどの基本的な躾(しつけ)にはめっぽう厳しく、怖い存在ではありましたが、言いたいことが何でも言えたし、父も僕のことをちゃんと受け入れてくれる、とてもいい関係でした。

基本的な躾以外、「勉強せい」なんてことはひと言も言わなかった父ですが、テニスに関しては厳しかった。といっても勝ち負けではなく、テニスに取り組む姿勢にはうるさかったです。父自身も名選手で、デビス杯の日本代表にもなった人だから、試合のスコアカードをみれば、真剣に戦ったのか手を抜いたのかがわかる。勝負を投げたような試合をしたとみると、「テニスなんか辞めてしまえ」と怒るんです。なんとか怒りを解いてテニスを続けさせてもらおうと、説得する方法を必死で考えたものです。
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source : 文藝春秋 2007年2月号

