特別国会が閉幕すると、永田町の関心は、早くも秋の自民党役員人事、内閣改造に移った。留任するか否かで注目された、総務大臣の林芳正は周辺にこう洩らしていた。
「次の人事で閣外に出た方がいいだろう。総務大臣としてだいぶ地方も回ったし、この立場じゃ言いたいことも言えないからな」
昨年9月の党総裁選挙で林は、議員票で高市早苗を8票上回ったが、党員票は約半分。2021年に参議院から衆議院に鞍替えして以降、外務大臣と官房長官の重要ポストを歴任したが、職務上、国民や党員と直接触れ合う機会は少なかった。
党員の人気・知名度が低いという現実に直面した林は、高市に地方を回るポストを希望し、昨年10月に総務大臣に就任。この1年で26の道府県を地方視察に訪れていた。
来年秋に総裁選を控え、このタイミングで留任すれば、総裁選に現職閣僚のまま臨む可能性が高い。閣僚の立場では、高市の政策を露骨に批判するわけにもいかず、出馬のハードルは確実に上がる。
そもそも高市と林の政策は、根本の方向性が異なる。積極財政を掲げる高市に対して、林は言わずとしれた財政再建派。中国に強硬姿勢を見せる高市と違い、林は日中友好議員連盟の元会長として日中関係を重視する。さらに政治スタイルも違う。スピード感の名の下に慣例を無視して強引に物事を進める高市に対して、秩序を重んじて敵を作らないのが林流だ。

先の国会で、高市の地元事務所が総裁選や総選挙の期間中に、対立候補への中傷動画の作成に関与した疑惑を指摘された時のことだ。高市が答弁の代わりに「陳述書」を提出したいと前代未聞の泣き言を繰り出した際、林は「陳述書で済むなら国会なんていらないよな」と高市の無責任さを周囲に嘆いてみせた。
安定感では定評のある林だが、総裁の座を狙えるとすれば、何かを契機に内閣支持率が急落し、自民党が高市路線からの転換を迫られた時だ。病気などで高市が降板となっても、路線継続であれば副総裁の麻生太郎が推す政調会長の小林鷹之か、外務大臣の茂木敏充が有力になる。
林もすでに65歳。ワンチャンスに賭けるため、ここで政権と距離を置く覚悟を決めていた。あとは任命権者である高市がどう判断するか――。
アンケートに白紙回答
周辺の一人が林に尋ねた。
「高市総理が林さんを敢えて財務大臣に指名して、消費税減税をやり遂げよ、と言って来たらどうしますか?」
林は、そんなことはあり得ないと首を振った後、こう笑った。
「その時は消費税減税の見直しを条件にするよ」
今回の人事を決めるにあたって、高市が重要視したのが、衆院当選2回以上の議員全員に配布した「役職希望アンケート」だ。アンケートは以前から行っていたが、派閥解消で「推薦議員リスト」がなくなり、さらに書類を読み込むのが大好きな高市が総理になって以降、俄然重みを増していた。
各議員はここぞとばかりに、自分の得意分野とやる気をアピールする文章を書きこんだ。8月25日の締切までにほとんどの議員が提出したが、白紙回答と未提出者がそれぞれ複数人いたという。白紙で提出した一人が林、提出しなかった一人が防衛大臣の小泉進次郎だった。
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