コロナ騒動のおかげかテレビも新聞も見るようになったのだが、日本の実情が海外に正確に伝わっていないことに、あらためて危機感を抱く今日この頃。日本への理解度が低下した、などという水準ではもはやない。政治・外交・軍事・経済の各方面で、実害をおよぼす怖れすらある。
そう言うと返ってくるのは、だから日本からの発信力を高めるべきだという答えだが、どうやって高めるのか。発信力が弱いのは、われわれ日本側にだけ責任のあることなのか。なぜ、20年前まではまずは満足すべき程度には報道されていたのが、今ではダメになったのか。
海外側の事情ならばまず、日本への関心が低下したことをあげねばならない。日本の国力の低下が、日本への関心の低下につながったにすぎない。
以前は東京に特派員を常駐させていたメディアも、今はそれを引き揚げ北京に常駐させている。日本関連のニュースも北京から伝えられること多し、になってしまった。
この現状を放置しておくと、日本は、中国駐在の記者がフォローしなければならない国々の一つ、に落ちるだろう。具体的には、津波や原発の事故は報じてもその後の復興は報じない、というつい先頃の事例が示すように。
それに、日本語まで自在に駆使できる外国人記者が極度に少ないという事情も加わる。
言葉とは、事実を伝達するためだけにあるのではない。事実をどういう言い方で伝えたか、も重要になる。それまで感じとらないと、ほんとうに理解したことにはならないのだ。
といって、日本語の習得をお願いするのも効果薄。なにしろあちらは、日本関連の報道の需要度低しと思いこんでいるので、供給にも熱心でなくなっている。実際、日本人以上に日本語を駆使できる外国人は増えているのに、彼や彼女たちは自国の報道機関から活用されていない。現状がこれでは、日本は大国としてもどってきました、と力説しても返ってこない山びこになる可能性大。
それで、個人の良識や努力に頼るほど人はよくない私は、制度のほうを変えることを考えた。
日本では各省庁から地方自治体にまで存在する、「記者クラブ」の全面的な開放である。官房長官の定例記者会見も首相の会見も、例外にはしない。会員になっているメディアに属す記者しか出席できなかったこれまでの記者クラブは全廃し、他のメディアも外国の記者も、記者証さえ所持していれば誰でもOK、に変えるのである。
日本語で話し日本語で質問し日本語で答えるほうが気が楽なのはわかるが、これもまた眼に見えない壁をわれわれのほうから立てていることになるのだ。
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source : 文藝春秋 2020年7月号