石破茂自民党元幹事長にとって、今回の総裁選は4度目の挑戦となる。“ポスト安倍”を問う世論調査では常にトップに名前が挙がっていたが、土壇場で出馬を決めた菅義偉官房長官を前に劣勢に立たされている。石破氏は、党執行部が「簡易総裁選」を決定したことに失望の色を隠さない。
「簡易総裁選」は残念
9月1日、自民党総裁選について、投票権を国会議員と都道府県連の代表者に限る「簡易総裁選」とすることが総務会で決定されました。これにより、全国に100万人以上おられる党員の方々には、投票の資格が与えられないことになります。
これには、私のもとにも派閥を超えて異議の声が届いています。党員投票の実施を求める署名は、自民党議員の4割弱に達しました。これほど大きな要望があったにもかかわらず、党執行部が「簡易総裁選」を決定されたのは残念なことでした。
石破氏
「コロナ禍という緊急事態だからこそ、政治空白が生まれるのを避けなければならない」「通常の選挙をやると2カ月はかかる」というのが理由ですが、疑問が残されています。
安倍総理は8月28日の会見で、「次の総理が誕生するまで全力でやる」とおっしゃいました。ですから総理がお辞めになるまでは、政府はきちんと機能し、政治空白は生じません。また、党員名簿はIT化が進んでいるので、選挙には2カ月もかからないはずです。各都道府県連での予備選をするのだから、通常の総裁選も可能ではとも言われます。
党執行部は、通常の総裁選が出来ないことを前提とせずに、まずは「党員の権利を剥奪しないために何ができるのか」ということを考えられたと信じます。主権者の権利をどれだけ最大限尊重するか、それが民主主義国家の鉄則です。しかし結果、「自民党の民主主義は死んだ」と批判されても仕方ないことになった。
自民党は現在も、「総力結集」というスローガンを掲げ、党員大増員運動を繰り広げています。「年に4000円の党費を払って自民党員になれば、総裁を選ぶことができますよ」というセールストークに魅力を感じて、党員になって下さった方も大勢いらっしゃった。それが「総裁選の投票権はないけど、国政選挙の時は頑張って応援してね」となれば、党員の存在とは一体何なのか。これでは党員が自民党に失望するばかりです。
政権奪還の“原点”
2009年に自民党が下野した時のことです。当時の谷垣禎一総裁、大島理森幹事長とともに、政調会長だった私も、伊吹文明先生を中心とした新綱領の策定に取り組みました。国会議員のみならず、地方の代表にも来てもらい、「自民党はどうあるべきか」徹底的に議論を重ねました。出来上がった綱領の大意は「勇気をもって真実を語る。あらゆる組織と協議して決断をする。政府を謙虚に機能させる。国会を公正に運営する」というものです。その努力があったからこそ後に政権を奪還できた。この“原点”を忘れてはなりません。
あの苦しかった時代、権力もポストも金もなかった自民党を見放すことなく支えてくれたのは党員でした。その党員を大事にできないようなら、遅かれ早かれ、国民からも見放されるのではないでしょうか。最終的には国政選挙で、国民から“しっぺ返し”を食らうことになります。野党の体たらくを見て「どうせ勝てる」と思うとすれば、それは驕りです。
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source : 文藝春秋 2020年10月号