やり過ぎだらけの感染対策

ここまでわかったコロナの新常識

堀 成美 感染症対策コンサルタント
ニュース 医療
盛りすぎた対策は減らしていい。感染症対策のプロが「正しい感染症対策」を教えます

<この記事のポイント>

●現在の混乱の多くは古くなった情報や不要なルールに振り回されることで生じている
●感染症対策が行き過ぎており、「やる必要がない」ことも多くある
●その一つが「屋外でのマスク着用」
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堀氏

新しい情報を元に感染症対策を検討

 私はフリーの感染症対策コンサルタントとして活動する看護師です。国立感染症研究所実地疫学専門家養成コースを修了し、大学の看護学部の教員や日本で初めての「感染症対策専門職」として感染症の専門医療機関で働きました。現在は東京都看護協会危機管理室アドバイザーや、東京都港区の感染症専門アドバイザーなどを兼務しています。

 新型コロナウイルスに関してメディアでは多くの医師や専門家が色々な情報を発信していますが、その中には医療現場の実態にそぐわない、あるいは国民の生活に即していないものも少なからず含まれているようです。そこで私は、医師ではなく看護師の視点から、このウイルスへの対応を迫られる医療の実情を見つめ直し、日常生活レベルで有効な対策を紹介しています。

 港区のアドバイザーとしての打診があったのは、感染症対策が行き過ぎているのではないか、新しい情報を元にした検討が必要なのでは? と、区が気付いたことがきっかけです。他の自治体同様、港区も図書館やスポーツセンターなど様々な施設の利用を停止したり、利用者数を制限したりするなどの措置を講じていました。しかし、新型コロナの性質がほぼわかって来るに連れて、「ここまでやる必要はあるのだろうか」と疑問が生じていたのです。

 区民からは、施設再開の希望の声も寄せられていました。区としても、できることなら再開したいし、秋に向けて防災展や国際映画祭の準備もしたい。ただ、感染拡大の不安もあったのです。そんな時に、医師ではなく看護師の立場で感染症対策のアドバイスをする人間がいると聞きつけ、私に依頼が来ることになったのでした。区からの依頼は、どの対策が必要でどの対策が不必要かを整理すること。そこで関連施設だけでなく、区内の飲食店にも足を運び、直接話を聞いて説明する「対話型アドバイス」を行いました。

 港区にも赤坂や六本木といった繁華街があります。報道や専門家が使った「夜の街」という言葉でマイナスイメージが広がり、一気に客の減った店からは悲しみや怒りの声が上がっていました。区の職員も何とか手助けできないかと悩んでいたのです。それで六本木の高級クラブを訪れ、接客の際の注意点を話したこともあります。実際に現場で話を聞いてみると、誤解や思い込みから、あれもダメこれもダメ、と制限してしまっているケースが多いことに気付かされました。

 新型コロナウイルスは、全容とまでは行かなくてもその実像はかなり見えてきました。感染を100%防ぐことはできなくても、リスクを確実に下げる方法はわかっています。

 これまでの経験をもとに、感染拡大から半年が過ぎて見えてきた「新しい日常にふさわしい対策五カ条」をお伝えしたいと思います。

第一条 

 【屋外でのマスクは不要】

 外を歩いていても電車に乗っていても、マスクを着けていない人を見つけることが困難なほど、皆さんマスクを着けています。

 ところが、私は皆さんほどマスク装着率が高くありません。外を歩くときはよほど混み合う場所でもない限り、基本的に外しているし、1メートル以上近づいて会話をしない限り、相手がマスクをしていなくても気にしません。

 そもそもマスクは、唾などの飛沫が飛ぶのを防ぐことが目的であって、喋らなければ唾も飛びません。普通に息を吸って吐いているだけでは、ウイルスは飛んで行かないのです。

 ただ、私も電車の中ではマスクを着けるようにしています。理由は、突然咳やくしゃみが出る可能性があるからです。マスクをしていないときに咳やくしゃみが出そうになったら、ハンカチで鼻と口を覆うか、着ているジャケットの内側や袖に鼻と口を押し付けるようにして飛沫が飛ばないようにする「咳エチケット」が推奨されています。ただ、咄嗟の時に間に合わない危険性もあるので、電車の中ではマスクをするようにしているのです。

 当初「通勤電車は3密で危険だ」と言われていましたが、緊急事態宣言が明けた後も、通勤電車で集団感染が起きたという報告はありません。それは、みんながマスクをして会話を控えているからです。つまり、密になっても換気を忘れず、マスクをして、喋らないことが対策として重要、ということなのです。

 マスクをしていないことを理由に飛行機から降ろされた人のことがニュースになりましたが、その人が大きな声で会話をしなければ、マスクをしないことが問題になることはありません。

 それよりも知っておいてほしいのは、「マスクを着けられない人」の存在です。過敏症やアレルギー、口の動きの障害や発達障害の人など、マスクを着けていられない人がいることを理解してほしいと思います。

 マスクをしないで喋れば感染リスクは生じますが、マスクをしていないだけで白い目で見られる社会は、科学や思いやりを忘れた、おかしな社会です。外を歩いている人がマスクをしていないからといって目くじらを立てることはないのです。

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※画像はイメージです ©iStock

第二条 

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source : 文藝春秋 2020年11月号

genre : ニュース 医療