最近のテレビ、何とかなれへん?

大﨑 洋 吉本興業会長
エンタメ 芸能 テレビ・ラジオ
「お笑いはインフラや」と語る大﨑洋会長が描く吉本のエンタメ戦略とは

<この記事のポイント>

●吉本のデジタル化はコロナで加速した。無観客公演の配信、「#吉本自宅劇場」など、動画配信の需要に気がついた
●テレビは方向転換が必要。資本主義的な、短絡的な考えには行き詰まりを感じている
●「住みます芸人プロジェクト」は大成功。地方には可能性があることを若い芸人たちは肌で感じている
大﨑洋
 

とんがった笑いよりも

 夜目遠目笠の内、って言葉がありますよね。夜に見るとき、遠くから見るとき、笠にちょっと隠れた顔を見るときは、実際よりキレイに見えるっていうことやけど、マスクで隠れた顔も同じかもしれへん。皆、イケメンや美人に見えてしまうかもしれませんね(笑)。

 新型コロナウイルスが流行するようになって、街中にはマスク姿の人が溢れるようになりました。マスクをかけていると、人の表情は分かりにくい。人間っていうのは他人から見られているという意識で、キュッと口角を上げたり、何パーセントか表情を作っていますからね。人から見られなくなって、自分自身の表情がちょっとだらしなくなったり、硬くなっているのが分かります。

 そんな中でこそ、「笑顔」がますます必要になってくるんじゃないでしょうか。吉本興業は「お笑い」から始まり、今では様々なエンターテインメントを提供する会社になりました。この集団の存在意義は「世の中のために笑いや笑顔を振りまくこと」やと思っています。吉本の企業マークは、人が笑っているニコちゃんマークですからね。

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「吉本新喜劇」は1959年にスタート

 ただ、今回のコロナを機に、吉本が提供する「笑い」や「笑顔」とは何なのか――改めて考える必要があると思っています。

 これまでの日本の社会は高度経済成長を経て、それぞれの人間が自分の利益や成長を追いかけ続けてきました。それがコロナで、緊急事態宣言が発令され、経済活動がいったんストップした形になった。これを機に、これまでの右肩上がりの資本主義とは違う社会になっていくんじゃないでしょうか。

 これまで、お笑いの世界も、「いかにとんがったことをやるか」、「いかに誰も発想しなかった角度で漫才やコントをやるか」という、上へ上への考え方でやってきました。松本人志のような天才が頂点にいる世界です。でも、お笑い原理主義を真っ向から否定するわけではなくて、もうちょっと違う“笑いの効用”があってもええんちゃうかと思うんです。

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 例えば、地方の田舎でおばあちゃん三人組がお菓子を持ち寄って、一日中他愛もないことを喋って笑い続ける、といった種類の幸せがあるじゃないですか。そういう幸せな日常の風景を、日本中で見られるような気分や状況を作りたいんです。歳をとったからなのか、最近は自分自身、とんがった笑いよりも思わず笑顔になるようなものを見たいと思うようになってきました。あんまり大きな声では言えませんが(笑)。

 コロナを経験した今、お笑いやエンタメには何ができるのか。吉本の会長として考えていることをお話ししたいと思います。

大変なのは、みんな一緒

「デジタル・アジア・地方」

 2009年に僕が吉本の社長に就任した時、経営方針としてこの3つのテーマを掲げました。特に深い考えがあったわけじゃなくて、新聞や雑誌を読んでいてポッと出てきた言葉です。2年か3年したら電通さんが同じようなことを言っていて、先に言うといてよかったみたいなのはあるんですけど(笑)。

 吉本のデジタル化は、今回のコロナで加速しましたね。3月2日から吉本の劇場公演は全て中止になったので、無観客公演のオンライン配信を始めました。ところが、緊急事態宣言で無観客公演も出来なくなった。そこで若い社員の発案で、4月21日から芸人さんが自宅から動画を配信する「# 吉本自宅劇場」というものを立ち上げました。4カ月間での売り上げが約3億円。リアルの売り上げには全然追いついていないですが、動画配信に一定の需要があるという気づきになりました。

 吉本は劇場が大変でしょうとよく言われますが、それは大変です。大変やけど、「補償しろ」とかそないギャーギャー騒いでもいけないと内心、思っています。そんなことを言い出したら、町のお豆腐屋さんもお好み焼き屋さんも八百屋さんも、日本中の商売をやってる人達は皆、コロナで大変な状況ですよ。あんまりエンタメばかりが大きい声を出すと、もっと大変な人達の声が届きにくくなります。

 今では吉本の全ての劇場公演が、ソーシャルディスタンスを保ちつつ再開しています。ここから、アナログとデジタルのバランスをどう取っていくかも大事ですよね。僕はいまだにスマホでもほとんどメールしか使わないアナログ人間です。僕みたいな人間もいるから、デジタルに手を出さずに、まだ人口の2~3割はいるアナログだけで食っていこうという考え方もあるでしょう。それも正しいかもしらんけど、僕は根がお調子者なもんで、どっちも楽しめたら儲けもんやという感覚でいます。

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社長を譲ってよかった

 吉本はこれまで、テレビ局と一心同体で成長してきた部分もあります。民放の歴史も今年でもう67年。僕と同い年なんですね。ここまで長くなるとほころびも見えてきます。このままデジタル化が進んだら、テレビも盤石ではいられない。オンラインメディアがどんどん参入してきて、時代の空気のなかで、良いものは残るというふうに整理されていくと思います。

 テレビも方向転換が必要なんじゃないでしょうか。最近のテレビを見ていると、芸能人の不倫や離婚がなんとかかんとか……そういう話も世間の人は興味あるのかもしれませんけど、僕なんかは内心、「ほっといたれや」と思って。

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source : 文藝春秋 2020年11月号

genre : エンタメ 芸能 テレビ・ラジオ