ペリー荻野「テレビの荒野を歩いた人たち」

文春BOOK倶楽部

本郷 恵子 東京大学史料編纂所所長
エンタメ 読書

「面白そう」「やっちゃえ」黎明期を知るレジェンドたちの証言

 かつてテレビが生活の中心だった時代があった。テレビは未知の世界に通じる窓で、新しいこと・楽しいこと・素晴らしいことがいっぱい詰まった魔法の箱だった。1953年2月にNHKが本放送を開始、8月には日本テレビが最初の民放テレビ局として開局、シャープの量産第1号テレビの価格は17万5000円(当時の国家公務員の大卒初任給が7650円)と、とんでもなく高価だったという。本書には、全くの手探りの時代からテレビの仕事に携わり、道なき道を進んだ12人のレジェンドたちが登場する。

 最年長は1924年生まれの俳優・久米明。スタイリッシュなナレーション(『すばらしい世界旅行』)や吹替(ハンフリー・ボガート)が素敵だった。最若手は『北の国から』のディレクター・杉田成道(1943年生まれ)で、黎明期のテレビは「あんなの面白そう」「やっちゃえ、やっちゃえ」「そんな感じでよろしく」で企画が動いていったと語る。

『渡る世間は鬼ばかり』の石井ふく子と橋田壽賀子は、コンビを組んだ初期のころは、電話でガンガンやりあった。もともと映画の世界にいた橋田の書く台詞は浮いた感じがして、石井は、テレビドラマの台詞はもっと日常的でリアリティのあるものでなければと主張したのだという。橋田作品の凄いところは、姑や小姑が滔々と開陳する独善的な理屈が不思議な説得力を持っている点だと、かねがね思っていたのだが、橋田自身も「姑には姑の理屈があって、筋が通っているんですよね。どちらがいいとか悪いとかじゃないのが、家族の難しいところ」と述べている。ホームドラマは奥が深い。

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source : 文藝春秋 2020年11月号

genre : エンタメ 読書