帰りたかったのに、帰れなかった米国
米国は帰りたかった。第二次世界大戦が済んだ欧州から一刻も早く手を引きたい。建国以来そういう国なのだ。本書は1796年秋のワシントン大統領の辞任演説から始まる。彼は言った。米国は欧州とあまりに異質なので、関わらない方がよいと。大戦の当初、米国民の態度はワシントンを踏襲していた。ヒトラーと戦うべきと考えた米国民はわずか3パーセントだったという。
雰囲気を一変させたのは「真珠湾の騙し討ち」。米国民は日独伊に怒った。米国は参戦して勝ち、すぐ帰ろうとした。特に欧州からは。ところが帰るに帰れない。長期総力戦の破壊力は絶大で、後に秩序が回復しない。勝利した英仏でさえ経済は崩壊。民間に自主再生の活力が残っていない。貧民が溢れる。
そこで何が起きるか。左翼が力を得る。ソ連が占領した東欧のみならず、西欧でも。フランスは計画経済的方法を導入し、イギリスは主要企業の国有化を進める。大戦の終わりに米ソの軍隊が何処を占領したかで東西両陣営の色分けが決まったのではない。戦後初期の選挙で左翼の得票率は、イタリアで4割弱、フランスで5割弱に及んだ。日本に片山社会党政権が誕生したのも同じ流れだ。
米国はどうするか。ソ連の流儀で欧州が覆われては、あとの商売に差し障る。が、米軍を欧州に残したくない。米国民がそれを許すまい。欧州には可及的速やかに、資本主義的な仕方で復興してもらわねば!
そこでケインズ流の公共投資だ。国から民間にお金を注ぎ込み、成長活力を蘇らせる。でも欧州諸国にお金はない。米国が援助しよう。「マーシャル・プラン」の登場だ。
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source : 文藝春秋 2020年11月号