光のない世界に託した人間の意外な姿
20年以上前に大学探検部の学生だった頃、洞窟好きの後輩が奇抜な計画書を出したことがあった。その後輩は心理学にも興味をもっており、洞窟の底の暗闇のなかで長時間過ごすことで自らの意識が如何に変容するのか知りたいというのである。変人といえば変人だが、本書のなかに、まったく同じ探検を試みた地質学者の話が紹介されていて驚いた。
この地質学者は地下120メートルの日光のささない暗帯で、時計ももたず本能だけで2カ月をすごしたという。読書や音楽のほかは寝て、起きて、食事をして排泄する日々。やがて代謝が不活発になり、幻覚がうかび、目の前に光の点が点滅するようになった。支援者が63日目にワイヤー梯子をおろしたとき、彼は衰弱のあまり自力で登れず意識を何度も失った。さらに彼自身の主観的な日付は、客観的な日付よりも1カ月近く短くなっていた。今思えば後輩の探検計画はこの話を元ネタにしていたのかもしれない。
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source : 文藝春秋 2020年11月号