アメリカの分裂が生んだ陰謀論者たち。その存在は大統領選挙の後も消えることはない。
<この記事のポイント>
●Qアノンとは2017年に確認された陰謀論の信奉者。その特徴は、反民主党、反リベラル、そしてトランプ支持
●Qアノンはコロナで増殖した。不満、不安、怒りによって生じた心のすきまに陰謀論が入り込んだ
●社会の分断が露呈しつつある日本でも、Qアノン的なものが広まる素地がある
フォロワーは300万人を超えた
あれは2018年2月のことだったと記憶しています。私はアメリカの政治や社会を研究しており、その一環としてワシントンDC近郊で開催された保守派の大規模な年次集会を視察しました。
大統領のトランプ氏も来場して演説したのですが、このとき私は初めて、Qの文字が描かれたサインボードを掲げる人たちや、Qの文字が入った服を着ている人たちを目にしました。
率直にいえば、その時は「ちょっと変わった人たちだな」と感じた程度でしたが、その後も保守派の集会へ足を運ぶと、Qの文字を目にすることが多くなりました。
そのうち、トランプ氏の集会では、少なからぬ人たちがQとプリントされたTシャツを着て、「私たちはQだ」と記したプラカードを掲げるという異様な光景が広がるようになったのです。
この「Q」を掲げる一派こそが、今年のアメリカ大統領選で話題になった「Qアノン」と呼ばれる人たちです。
Qアノンとは端的にいえば陰謀論の信奉者で、アメリカの機密情報を知る当局者と自称する「Q」なる存在が、インターネットの匿名掲示板で発信した情報を信じている人たちを指しています。「アノン」とは匿名を意味する「アノニマス」からきているといわれています。
その数は数十万人とも数百万人ともいわれており、その属性も、インターネット上が活動の中心なので、比較的、若い層が中心だと見られていますが、実態は謎に包まれています。ただ明白なのは反民主党であり、反リベラルであり、そしてトランプ支持というスタンスです。
今年にはいってQアノンの勢いは増しており、この夏、フェイスブックがQアノン関連だと思われる団体のフォロワー数を数えたところ、300万人以上いたというのです。
フェイスブックは大統領選を前に、Qアノン関連の投稿を禁止する措置をとりました。ユーチューブもQアノン関連の動画を削除しており、その件数は数万にものぼると報じられています。
ここまで勢力が拡大しているQアノンですが、大統領選にどの程度の影響をおよぼしたのかは、今後の綿密な検証を待つしかありません。
まだ大統領選の結果を左右するほどの勢力ではないという見方が強いし、私もそう見ています。
さりとてQアノンを「バカげた陰謀論者たちだ」と一蹴するわけにはいきません。
大統領選への影響はまだ限定的かもしれませんが、Qアノンがアメリカ中央政界を侵食していることは明らかだからです。
Qのマークを掲げるトランプ支持者
中央政界を侵食
大統領選と同時に、日本の国会議員に相当する連邦議会議員の選挙があり、これにはQアノンのシンパだと目されている人物が20名ほど立候補しました。
この記事の締め切り時点では、大統領選も連邦議会議員選も投票は行われていませんが、南部ジョージア州の女性候補は下院議員への当選が有力視されています。
これまでは陰謀論的な勢力に加担してしまうと、さすがに広範な層からの支持が得られず、選挙に勝てないとされてきました。
そのため陰謀論は政治の世界から排除されてきましたが、それがワシントンの中枢に入り込んでしまった。これはアメリカの歴史において、初めての事態ではないでしょうか。
そしてQアノンを無視してはならない第2の理由は、この一派を生み出した土壌を考察していくことで、いまのアメリカ社会の現状が見えてくるからです。
そうした状況は一朝一夕に出来あがったものではないため、選挙後も簡単には変わりません。トランプ氏が勝つか、バイデン氏が勝つかは分かりませんし、私は投票後もすんなりと勝者が確定するとは限らないとみています。
ただ、どちらが勝つにせよ、Qアノンを生み出したアメリカの社会・政治状況は当面、続きます。Qアノンの台頭は、選挙の結果そのものよりも、ある面では重い現象だといえるでしょう。
TシャツにQの文字
〈闇の国家〉が存在している?
では、Qアノンとはどういった存在なのか、あらためて確認していきましょう。
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