カンヌ国際映画祭をはじめ世界各国で高い評価をうける河瀨直美監督。そんな彼女が「世界的な才能」と絶賛するのは18歳の新進女優だ。
河瀨氏(映画監督)
Photographed by LESLIE KEE
是枝作品の常連
野生動物のような演じ手に出会った――というのが、映画監督としての私の実感です。
2018年、映画『朝が来る』(10月23日公開)のオーディションに現れたときから、蒔田彩珠(まきたあじゅ)は他の女性とまったく違った空気を醸し出していました。力強い眼差し。内側にしっかりとした芯が“発芽”していることを感じさせる佇まい。当時、彼女は16歳でした。
『朝が来る』で演じてもらったのは、14歳で予期せぬ妊娠をしてしまう片倉ひかりという女の子。特別養子縁組の制度のもと、無事に出産した子は主人公夫婦のもとで育っていくのですが、彼女自身は厳しい人生を歩んでいく……。
難しい役どころでしたが、蒔田さんに託すことに、不安はまったく覚えませんでした。オーディションを通じてたくさんの俳優に出会いましたが、それくらい彼女の存在感は抜きんでていた。
実は映像を通じて、彼女の存在は知っていました。親交のある是枝裕和監督のテレビドラマ『ゴーイングマイ ホーム』(フジテレビ系)に彼女は10歳で出演し、その後、映画『海よりもまだ深く』、『三度目の殺人』、『万引き家族』と、是枝作品の常連になっていた。是枝さんは彼女の才能に惚れ込んでいました。
私が是枝さんに蒔田さんを『朝が来る』で起用したいと伝えると、彼は、私の現場の厳しさも役の過酷さも踏まえて「仕方ないな」と。まるで愛娘をお嫁に出すような(笑)ニュアンスさえ感じましたが、蒔田さんはそれほどの才能の持ち主です。
彼女の生まれ持った才能を痛感したエピソードがあります。映画撮影が終わりに近づいた頃、置いてあった彼女の台本を何気なく手に取り、めくったことがあるんです。驚きましたよ、何の書き込みもなく、真っさら、赤ペンや鉛筆での書き込みや線はなく、彼女の台本は新品同様でした。でも台詞はちゃんと頭に入っている。毎日芽生える感情に丁寧に寄り添い、役を生きていた。
どんなタイプの俳優なのか。『萌の朱雀』(1997年)で主演してもらった尾野真千子に似ているとおっしゃる方がよくいます。
尾野真千子と蒔田彩珠。ふたりは全然違うタイプなのですが、いわれてみれば、たしかに似ているところは多い。現場があることこそが生き甲斐で、演じているときのほうが本当の自分に近い――現場でこそ自分が生かされているような、選ばれし人間なのでしょう。
あと、横顔が山口百恵さんに似ていると編集スタッフの間で話題になったこともあります。一世を風靡した往年の大女優、その片鱗のようなものを感じたのかもしれません。
しかも、つくりもの感がまったくない。この年頃の女の子に綺麗な光を当てて撮影すると、グラビアアイドルのように映ることもあるでしょうが、蒔田さんは光になびく産毛までがリアルです。やはり彼女は、着飾ったお人形ではなく、野生の動物のような演じ手なんです。
蒔田彩珠(女優)
世界に羽ばたく才能
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