「タイム」誌の表紙を飾った「21世紀のビートルズ」はこうして生まれた
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▶︎『タイム』誌は、ビートルズ以来、初めて「世界を征服した」という形容句でBTSに賛辞を送った
▶︎BTSの世界的な成功について、「KーPOP固有の価値に忠実だったから」との分析がある
▶︎JーPOPが全体的に可愛さを強調しているとすれば、KーPOPはセクシーさに重点を置き、よりクールなイメージを構築した
「世界を征服した」
アメリカを代表する週刊誌『タイム』は2020年の「ENTERTAINER OF THE YEAR」に韓国のポップグループである防弾少年団(以下、BTS)を選出した。アメリカの権威ある週刊誌が英語圏ではない国の歌手を選出するのは異例のことだ。『タイム』誌の公式ツイッターは「BTSは単なるヒットチャート上での偉大なK‒POP歌手ではなく、世界で最も偉大なバンドになった。以上」とつぶやいた。
『タイム』誌は、世界が新型コロナウイルスによってどん底に落ちた20年、BTSがファンたちとの関係をより強固なものにし、ポップスターとして頂点に立った点を強調した。確かにBTSは昨年、誰よりも記録的な「上昇」を手にしたと言えるだろう。
8月に発売したシングルの「Dynamite」は「ビルボードホット100」で初登場1位となった。全編英語で歌っているが、韓国人アーティストとしては史上初、アジア人としても「スキヤキ」の坂本九以来、57年ぶりの1位だ。
さらに11月20日に発売したアルバム「BE」とアルバムからシングルカットされた「Life Goes On」が12月5日付けの「ビルボード200」と「ビルボードホット100」で同時に初登場1位となった。これまでシングルとアルバムチャートで同時に初登場1位を記録したのは昨年8月のテイラー・スウィフトだけだ。ちなみに12月5日のシングルチャートの3位は「Dynamite」だったので、トップ3のうち1位と3位をBTSが占めたことになる。
さらに「Dynamite」はグラミー賞の「ベストポップデュオ/グループパフォーマンス」部門にノミネートされ、BTSは韓国人アーティストとしては初のグラミー賞候補となった。受賞者の発表は1月31日だが、アメリカの音楽関係者らも受賞の可能性は高いと予想している。
BTSは夢物語だと思われていたアメリカ音楽界の征服を実現した。これは音楽においては、世界を征服したと言っても過言ではない。
『タイム』誌は昨年、「BTS――世界を征服したK‒POPバンド」というタイトルの特別号を発行している。『タイム』誌は「歴史上最も偉大なグループ」であるビートルズ以後、例えばエルトン・ジョン、アバ、マイケル・ジャクソン、マライア・キャリー、アデルなどワールドワイドな活躍を見せたスーパースターたちにも「世界を征服した」という形容句は使わなかった。ビートルズ以来、初めてこの言葉でBTSに賛辞を送ったのだ。
「YouTube時代のビートルズ」とも呼ばれる
コリアン・インヴェイジョン
BTSが代表するK‒POPの躍進に対する国際社会の驚きをひとことで表現するなら、宇宙の始まりを意味する「ビッグバン」が適当かもしれない。
今の韓国は昔とは違う。韓国戦争(朝鮮戦争)当時は世界でも最も貧しい国のひとつだったが、その後IT強国となり、そして、CT(カルチャーテクノロジー)強国となった。韓国は今や、「カルチャーコリア」なのだ。世界各地であらゆる人々が韓国の音楽、映画、ゲーム、ドラマを楽しんでいる。その中で最も成功しているのがK‒POPだ。
かつて、ビートルズ以降、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、アニマルズ、キンクスなどイギリスのアーティストが相次いでアメリカに進出し人気を得たことを、アメリカの音楽メディアは「ブリティッシュ・インヴェイジョン(イギリスの侵略)」と命名した。いつからか、これにならった「コリアン・インヴェイジョン」という言葉を聞くようになった。
00年代半ばから後半にかけて「SUPER JUNIOR」、「KARA」、「2PM」、「SHINee」などのグループがアジアを席巻し、さらに「BIGBANG」、「Wonder Girls」、「少女時代」、「2NE1」などがアメリカ、ヨーロッパへと進出する中で生まれた言葉だ。そして、「コリアン・インヴェイジョン」とともに「K‒POP」という言葉も誕生した。
「コリアン・インヴェイジョン」は10年代に入るとさらに活発になり、K‒POPという言葉もより浸透した。現在ではNCTやBLACKPINKがBTSと共に、ビルボードチャートに名を連ねている。
21世紀のビートルズ
ビルボードは、間もなく、K‒POPをポップスやロック、R&B、ラップ、カントリー、ラテンポップのように、1つのジャンルとして扱うつもりだという。今回、BTSが韓国人アーティストとして初めてグラミー賞の候補となったが、今後、K‒POPアーティストたちがこれまで以上にアメリカで活躍するなら、新たにK‒POP部門を新設できなくもないという話も聞こえてくる。
なぜ、数多ある音楽の中でK‒POPが頭角を現し、世界に受け入れられ、爆発的な人気を得られたのだろうか。ある音楽関係者は、K‒POPが世界の大衆を惹きつける理由は4つあると分析している。
まず、第1の理由として挙げられるのは、力強さと一体感のあるグループダンス・パフォーマンスだ。K‒POPアーティストたちの絢爛でセクシーな群舞をライブで体験した観客たちは、その迫力に圧倒される。
あるARMY(BTSはファンたちをこう呼ぶ)は「兄さんたちのダンスはユーチューブでも見ることはできるけど、実際にライブで見るとそのダンスがあまりにも強力なので涙が出てくる」と打ち明けた。
BTSのブームは、元はといえばその音楽よりも、ライブの素晴らしさで世界中のファンを魅了したことから始まっている。典型的な「ライブ現象」なのだ。
18年から欧米のメディアがこぞって、BTSを「ユーチューブ時代のビートルズ」、「21世紀のビートルズ」として紹介するようになったのは、このふたつのグループが基本的にライブで世界にセンセーションを巻き起こしたからだ。
K‒POPが世界で人気を博した第2の理由は、そのビジュアル、第3の理由は優れた歌唱力、そして第4の理由としては、各国のプロモーターなどとパートナーシップを作り上げ、アーティストをグローバル市場へと売り込んだ韓国の芸能事務所の力量があげられる。
韓国の三大芸能事務所といわれるSMエンターテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメント、そしてBTSが所属するビッグヒットエンターテインメントは、継続してK‒POPスターを発掘・育成し、世界屈指のエンターテインメント会社に急成長した。
一部のARMYの中にはBTSの世界的な成功は「BTSポップの勝利」であって、K‒POP全体に拡大解釈するべきではない、という意見もある。しかし、ビッグヒットエンターテインメントのパン・シヒョク代表は、BTSの成功を「K‒POP固有の価値に忠実だったから」としている。
彼の言うところのK‒POP固有の価値とは、「美しいビジュアル」、「様々なスタイルを融合した音楽」、そして「華やかな舞台パフォーマンス」だ。つまり、BTSはK‒POPそのものなのだ。
現在、韓国の芸能事務所はBTSに刺激され、海外市場、特にアメリカのマーケットへの進出を虎視眈々と狙っている。新型コロナウイルスのパンデミックが収束したら、欧米でさらに多くのK‒POPアーティストが活躍するようになるだろう。
歌詞に熱狂する若者たち
BTSが世界中の若者に愛される理由がもう一つある。彼らの歌う曲の歌詞だ。BTSの歌詞は、格差社会と不平等で歪んだ世界を批判し、孤独を感じている若者を慰める。若者たちは自分たちの気持ちをすくいあげた歌詞に共感し、熱狂する。
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source : 文藝春秋 2021年2月号