1月8日、韓国のソウル中央地裁は韓国人元慰安婦ら12人が日本政府を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、日本政府に賠償を命じる判決を下した。なぜ日本は韓国の歴史プロパガンダにやられっぱなしなのか?
慰安婦問題をめぐり、日本外交は敗北した。ドイツ・ベルリンでの慰安婦像設置をめぐる経緯から、産経新聞編集局編集委員で國學院大學客員教授の久保田るり子氏が問題の本質を読み解く。
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▶︎ベルリンにおける慰安婦像設置運動を牽引した在独韓国人市民団体「コリア協議会」をサポートした日本人女性たちがいる
▶︎ドイツのリベラル勢力は、韓国の「ドイツはちゃんと戦後処理をした、日本は謝罪も賠償もしていない」という事実誤認を心情的に受け入れている
▶︎慰安婦像設置をめぐり日本外交は敗北した。韓国政府は今後も国の威信をかけて運動を展開する。今後も慰安婦像は増え続けるだろう
「戦時性暴力を全世界が記憶するための象徴」
ドイツ・ベルリン市中心部に設置された慰安婦像が、永久設置の方向に向かっている。日本政府の働きかけで一度は撤去命令が出たものの、主催者側の猛烈な巻き返しが地元ミッテ区議会を動かしたのだ。
いまやドイツで日本軍慰安婦は、ナチスのジェノサイドや狂信的イスラム原理主義テロリストIS、旧ユーゴスラビアの民族浄化の被害者と同列の扱いで「戦時性暴力を全世界が記憶するための象徴」に祭り上げられてしまった。日本外交はまた惨敗した。
慰安婦像が設置されたのは、ブランデンブルク門やベルリン中央駅のあるミッテ区の住宅地、日本大使館から約3キロの公共の場所である。慰安婦像は韓国のほか、米国、カナダ、オーストラリアなど世界各国に設置されてきたが、欧州ではドイツだけにある。ドイツ国内にすでに二体があるが、公共の場所での設置はベルリンが初めてだ。
2020年9月28日、像の除幕式には、その後の展開を予感させる人々が集結していた。ラーベンスブルク・ナチス強制収容所記念館の元館長や、ISに連れ去られて3000人が行方不明のイラクの少数民族ヤジディ族の解放運動の活動家、北朝鮮・咸鏡南道の咸興の障害者支援団体の活動家などだ。ユーゴ内戦時の性暴力問題などを扱う「メディカ・モンディアル」も参加した。そして、在独日本人女性の団体「ベルリン女の会」のメンバーもいた。
慰安婦像を設置したのは、在独韓国人市民団体「コリア協議会」(ハン・ジョンファ代表)だ。ベルリンで約30年にわたり人権活動を続けている。集まった活動家たちは「コリア協議会」と長年連携してきた人々で、慰安婦像設置に協力した団体は30以上に上る。参加者は「コリア協議会」が流布してきた国連クマラスワミ報告に示された「慰安婦は性的従属、虐待、性奴隷だった」「慰安婦は集団レイプされた」「慰安婦は虐殺された」「残忍な兵士にもてあそばれた」といった捏造認識を真実と信じており、日本の戦争犯罪への糾弾の声が次々に上がった。
韓国の左派紙「ハンギョレ」は除幕式の会場の声を報じている。
「少女(慰安婦)像が世界各地に設置されなければならない理由は、コンゴやアフガニスタン、シリア、ミャンマーで現在も行われている戦時性暴力に目を向けさせるためだ」(ナチス強制収容所記念館元館長)
「韓国から来た少女像は(ISによるヤジディ族抹殺のあと性暴力の犠牲となった)ヤジディ女性たちの姿そのもの」(ベルリン・ヤジディ女性協会の活動家)
ベルリンに設置された慰安婦像
像設置の援軍は日本人女性たち
「コリア協議会」は韓国の慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)と関係が深く、正義連代表だった尹美香(ユンミヒヤン)と連帯してきた。2008年ごろから韓国から元慰安婦らをドイツに呼んで集会や講演会を開き、慰安婦運動の欧州の拠点となってきた。元慰安婦、吉元玉(キルウオノク)がベルリンで体験を語っている。
吉はドイツのほかフランスなどの欧州、米バージニア州アナンデールなど海外での広報をしてきた。尹美香の引率でフランスを訪れた当時の韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の「欧州平和紀行」は、北朝鮮に機密を漏らした容疑により国家反逆罪で逮捕された元公務員ブノワ・ケネディとも接触している。
韓国の慰安婦運動は反日と親北朝鮮がセットになっている。ドイツでも同じだ。「コリア協議会」も尹美香と同様に親北の傾向で、文在寅(ムンジエイン)の政策を「真の民主主義」「朝鮮半島平和」と賛美する。「コリア協議会」には贖罪派日本人女性がメンバーとして入っている。そして、「コリア協議会」と「ベルリン女の会」の連携は長い。
「ベルリン女の会」は国際結婚などで在独となった日本人女性たちが、1980年代に日本の法改正で在外の子どもたちの国籍が父母両系になったことを契機に勉強会としてスタートした。このころ、韓国の詩人金芝河(キムジハ)と交流のある画家の富山妙子が訪欧した。富山は日本の戦争責任をテーマにする画家だ。ベルリンで展覧会を開き「ベルリン女の会」に富山を囲む会ができた。これがきっかけで「コリア協議会」との交流が始まり、「ベルリン女の会」は日韓の政治イシューにのめり込んだ。
彼女たちは安倍晋三首相に慰安婦問題で公開質問状を出し、首相訪独(2014年4月)の折にはドイツ首相府前で「慰安婦に謝罪して賠償せよ」「平和憲法を守れ」「靖国神社はいらない」などのスローガンを掲げたデモを行った。「ナチズムと強制売春」などの在独翻訳家、池永記代美、梶村道子らが主要メンバーで、活発な活動をしている。
ベルリン市の慰安婦像設置運動には、こうした在独日本人女性のネットワークが参加した。今回の日韓外交戦で、この日本人女性ネットワークが「日本政府側の動きに相当なダメージを与えた」(外交筋)という。
元慰安婦とされる人々のデモと抗議
「コリア協議会」の逆襲
昨年12月1日、ベルリン市ミッテ区の区議会で、慰安婦像の撤去命令の撤回と永久設置も可能にする「平和の慰安婦像存置案」が賛成24票反対5票の圧倒的多数で決議された。当初は2021年8月14日までとされた設置期限は9月末に延長、さらに決議に「区役所は、少女像の永久存置解決策を探る。その際は区議会も参加しなければならない」と明示されてしまった。撤去反対派が大多数を占めたことで、ミッテ区が独自に慰安婦像を撤去することは事実上、不可能になった。
いったいなぜこんなことになってしまったのか?
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source : 文藝春秋 2021年2月号