日本も豪州も相手国への新任大使を拝命した外交官たちは、同僚にうらやましがられる。「いいですねえ、何にも懸案がないところで……」。
しかし、これからの時代、それは大きく変わるだろう。日米それぞれの大使がそうであるように、日豪の大使も自国の死活的な安全保障の課題について、相手国との戦略的協力を強化する重要な任務を負うことになる。日豪は日米同盟のように条約に基づくものではないにしても、実質的な同盟国へと発展していくことになるだろう。
背景に、両国を取り巻く国際環境が日に日に険しくなっていることがある。中国は、これまでの米国主導の国際秩序、なかでも米国の同盟を「冷戦時代の遺物」と見て、その弱体化を図ろうとしている。場合によっては、中国の経済力と市場規模をテコに強制措置としての経済制裁を科すことを厭わない。
もう一つ、双方にとっての同盟国の米国が国内の政治、社会の大分断のせいで世界におけるリーダーとしての役割を十分に果たせなくなりつつある。バイデン政権は同盟重視とアジアへの参画を標ぼうしているが、貿易政策と人権問題が再参画の足かせとなるかもしれない。CPTPPのような多角的な自由貿易協定に参画するのは民主党の支持母体の労組の反対もあり難しい。トランプの人権侵犯無視への反動もあり、人権の旗印を高々と掲げているが、やり方次第ではアジアの国々の反発を招く。
日豪ともに、米国の対外コミットメントが内向きになり、信頼性と抑止力が弱まるのではないかとの懸念を共有している。米国がアジアにより深く関与し、抑止力を再強化し、インド太平洋に自由で開かれた国際秩序を構築するのを促すよう、日豪が提携していく必要性が増しているのだ。
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source : 文藝春秋 2021年4月号