無差別テロが照射する格差と“正義”のおそろしさ
小説は衝撃的な事件からはじまる。日本最大級のコンベンションセンターでアニメの一大イベントが行われる日。長蛇の列を作るアニメファンたちに向けて、カートを押してあらわれた男が火炎瓶を投げ続ける。たまたまそこに居合わせた大学生、壮弥は思わずそれをスマートフォンで記録する。男は最後、自身に火をつけて自殺する。やがて無差別大量殺人を犯した男の身元があきらかになる。斎木均、41歳、無職。小学生のときにいじめに遭い、不登校になったことも報道される。
事件をニュースで見てもさほど興味を持たなかった銀行員、安達周はその名前をきっかけに、忘れていた過去を思い出す。斎木均は小学校の同級生だったのだ。安達自身はいじめに加担してはいなかったものの、きっかけを作ったのかもしれないと思いはじめる。いじめの過去と事件ははたしてつながっているのか。安達は独自に調べはじめる。
積極的に斎木をいじめていた真壁、事件の動画で一躍有名になった壮弥、事件で娘を失った厚子、話者を変えつつ、小説は斎木均の犯行動機をさぐっていく。しかし小説が読み手に抱かせる疑問は、犯人の動機を超えて、深く普遍的なものだ。
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source : 文藝春秋 2021年6月号