りそな会長「銀行冬の時代」変化を恐れるな

東 和浩 りそなホールディングス取締役会長
ビジネス 企業
「銀行はいずれなくなる」と言っているんです。(取材・構成=森岡英樹)

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メガとはかなり性質がちがう、りそな独自のポジションを築いた。「リテールといったら、りそな」とお客さまにも言ってもらえるようになってきている
▶︎りそなが再建する過程で得られた大事な教訓のひとつは、とにかく現場重視、具体的には、「今いる人たちに徹底的に活躍してもらう」「答えは現場にある」ということ
▶︎結局のところ、経営者は「社員は何でも言っていい」という組織を作らないといけない
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東氏

過去の教訓を後世に伝えなくては

 細谷(英二元会長、2012年死去)さんのことは絶対に忘れてはいけないと思って、役員フロアの細谷さんがいた場所を当時のまま残しているんです。実際に見てもらうとわかるんですけれど、部屋ではありません。われわれ役員も大部屋で仕事をしているので、そのいちばん端に、細谷さんが座っていた机と椅子をそのまま残している。毎日でも見に行けるようにね。

 なぜ、そうしているかというと、組織はやはり人が入れ替わってしまう。われわれもすでに6割の人がりそなショック(2003年)以降に入ってきた社員です。ということは、例えば、会議の時に、「りそなショックを踏まえて」と私が言うでしょう。ところが聞いているほうは、「何ですか? それは」という感じで……もちろん支店長クラスは大体わかるんですが、それより若い人たちは、ピンと来ないわけです。

 若手社員には、研修などで公的資金が入った直後の支店長会議の映像を見せるんですよ。実体験がないから、その緊張感を伝えたいと思って。よく私が言うのは、東日本大震災の時に有名になった「此処より下に家を建てるな」という有名な石碑の話です。あれと同じで、過去の教訓をきちんと後世に伝えなくちゃいけない。

 私は直接細谷さんとずっとやり取りしていたから、細谷さんの声は今も耳によく残っています。みんなの前で話すときは、厳しい顔をして、「嘘をつかない」とか、「りそなの常識は世間の非常識」と話していた姿をよく覚えている。怒鳴りはしない。淡々と言うんだけど、聞いている方は常にピリッとした緊張感がありました。その記憶を呼び覚ますことが非常に大切だと思っています。

 それは細谷さん個人を思い出すことだけではなくて、公的資金が入った時のことを忘れるなということなんです。どれだけお客さまや株主に迷惑をかけたか。社員にもOBにも迷惑をかけました。それを特に経営陣は絶対に忘れてはいけないということです。

 2003年に約1.9兆円の公的資金注入を受け、りそな銀行は国の厳しい管理下に置かれました。同時に、新たな経営者として就任したのが、JR東日本副社長だった細谷さんでした。あれから18年がたち、いまは規模でいうとメガバンク3つのあと、4番目がりそなだと言われますが、メガとはかなり性質がちがう。私たちがやってきてよかったなと思うのは、りそな独自のポジションを築いたことです。「リテールといったら、りそな」とお客さまにも言ってもらえるようになってきました。

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役員フロアの「細谷コーナー」

細谷さんとの出会い

 返済した公的資金はトータルで3兆1280億円。世間からは、「100年たっても返せない」と言われました。それを返済していく過程で新しい銀行のあるべき姿を模索した結果、今のりそなにたどりついた。細谷さんとも常々「これまでの銀行とは違うことをやろう」と語り合いました。今もこの「人がやらないことをやろう」ということは大事にしています。

 りそな銀行は、大和銀行とあさひ銀行が経営統合してできた銀行で、本社は大阪にあります。

 銀行業界は統合再編の歴史です。私自身も5回経験しました。入行したのは埼玉銀行ですが、まず協和銀行と合併して、あさひ銀行になり、次に東海銀行との幻に終わった再編話に関わり、その後、大和銀行と統合。そして2003年にりそなが誕生しました。最後が2017年の関西みらいフィナンシャルグループの設立です。

 銀行はどこも似た組織、風土を持っているものですが、りそなが「人がやらないことをやろう」という社風になったのも、「何でも言っていい」という風通しの良い組織に生まれ変わったのも、会社の存亡がかかった危機的な状況の中で、細谷さんとの出会いがあったからこそなのです。

 私が最初に細谷さんと会ったのは、会長就任会見の会場でした。当日の朝に今度来る会長が細谷さんという人だと聞かされて、「誰だろう?」と。私は細谷さんのことを知らないまま、徹夜でプレスリリースを用意していました。

 初日から驚かされることがありました。会見前にりそなの幹部が細谷さんのところに時間をかけて用意した分厚い想定問答集を持って行ったところ、あっさりと「要らない。自分で話すから」と言われたことです。私は裏方でしたが、これにまず驚きました。

 細谷さんは小柄な人で、あんまりベラベラしゃべらない。熊本出身の肥後もっこす。イエス・ノーがはっきりしているし、腹が据わっていました。

 当時、最大の懸案だった不良資産処理の問題も即断即決でした。最初に細谷さんが言ったのは、とにかく不良資産をすべて出してくれと。株式だとか、不動産だとか、海外のもあれば、国内のもあるし、そういうもので不良なものは全部出して来いと言うわけです。

 でも、貸出債権の場合は、不良とは言っても、生きている会社の評価の話ですから、要注意先債権と見るのか、破綻懸念先債権と見るのかは、恣意性があってはいけないのですが、大きな幅があるわけです。それで審査担当が苦心して自分なりに考えて3通りの案を作り、細谷さんに持って行った。財務担当だった私もそのとき付いて行きました。評価の仕方によって大・中・小と不良資産の大きさが全然違う案を3つ並べたわけです。

 細谷さんはひと通り説明を聞くと、間髪を入れずに「じゃあ、これ」と一番大きい金額のものを選びました。私はその時、「エッ」と。これは大きな赤字を意味するものでしたが、細谷さんに迷いはまったくありませんでした。

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細谷氏

銀行は潰れることが罪

 社員の給与3割カット、OBの年金カットも決めました。社員の給与カットに反発はあまりなかったですが、年金はそうは行きませんでした。やはり社員は事の重大さが分かっているけれど、退職した方々は自ら長年積み上げてきたものがありますから、後輩たちは一体何をやっているんだと反発は大きいものがありました。私だってOBだったら文句を言っていたと思います。

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source : 文藝春秋 2021年7月号

genre : ビジネス 企業