受賞のことば 小砂川チト
Switch2が手に入らず、散歩コースにあるレンタルビデオ店をせっせと覗いていた時期があった。毎日「品切れ」の張り紙と、がらんと空いた棚だけがそこにあることを確かめては、ヨシと納得して帰る。ところがある日、ほとんど事故のようにして「在庫ございます!」に出遭ってしまう。奇妙なことにその次の日からもわたしは、店へ通うことを続けていた。自分のSwitch2はすでに家にあるにもかかわらず、その幻影を捜してさまよっていたのだった。
自分の手の中に入ったようで、その手ざわりや重さにはいつまでも実感が伴わず、だからわたしはこれからもオロオロと捜し続けるのだという気がする、いつまでもいつまでも芥川賞の幻影を、書きながら追いかけ続けることになるのだという予感がする。
〈略歴〉
1990年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科修了。2022年「家庭用安心坑夫」で群像新人文学賞を受賞。
受賞者インタビュー 小砂川チト

「誰も褒めてくれない」という一節は執筆時の私の心の叫びです(笑)
――群像新人文学賞を受賞したデビュー作の「家庭用安心坑夫」、2作目の「猿の戴冠式」が続けて芥川賞の候補となり、そして3作目でついに受賞となりました。
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source : 文藝春秋 2026年9月号

