受賞のことば 鈴木結生
仏教では「物語を作ること」は、「嘘をつく」罪にあたる。そのため、中世には源氏物語を書いた紫式部と読者たちは地獄へ堕ちたと考えられた。彼女らの魂を救うべく、源氏の巻名を読み込んだ表白文を唱えながら、各巻を燃やすのが所謂「源氏供養」である。
昔からこの不思議な慣習に心惹かれてきた。虚構の世界に憑かれた人々の救済、という建前と、源氏の全巻名の覚え歌を作ることの矛盾が可愛くて。今回、受賞後の記者会見中、芥川作品のタイトルを並べてみたのは、一種の「芥川供養」のつもりだった。
生まれつき物語を愛する自分と、そんな自分を救いたい自分がいる。今の自分は、両者の間で迷いながら、自他の物語を供養(記憶)している。その足跡を「小説」と呼んでいいのなら、一生小説家でいたい。
〈略歴〉
2001年生まれ。福島県郡山市出身。2024年、「人にはどれほどの本がいるか」で林芙美子文学賞佳作を受賞しデビュー。
受賞者インタビュー 鈴木結生

せめて文学には安心を求めたい
──芥川賞の選考会当日は、作家の朝比奈秋さんと大原鉄平さんと一緒に選考会場の料亭「新喜楽」にほど近い築地の朝日新聞社で「待ち会」をしていたと聞きました。
鈴木 僕は昨年、「人にはどれほどの本がいるか」という作品で林芙美子文学賞の佳作を受賞してデビューしたのですが、大原さんは同じ年の大賞。昨年、芥川賞を受賞された朝比奈さんもデビューは林芙美子賞なので、「チーム林芙美子賞がいまキテる!」という話で盛り上がりながら待っていました。
受賞が決まった後の2次会には、同じく林芙美子賞を受賞し芥川賞も受賞された高山羽根子さんも駆けつけてくださって、「受賞後はエッセイをたくさん書くことになるよ」といった芥川賞作家からしか聞けない貴重なアドバイスをいただきました。
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source : 文藝春秋 2025年3月号