受賞のことば 松永K三蔵
本など読まなかった十四歳の私に母は、気が滅入るほど分厚いドストエフスキーの『罪と罰』を与えた。なぜだか私はそれを読破して、小説を書き始めた。母が亡くなった後、書くことは私の支えになった。
小説家になること。母の墓前にそれを誓い、二十年以上かかったが、それは果たせた。
そして芥川賞の選考会当日、東京に発つ前に母の墓前にひとり、報告に行った。──“三蔵”。母が敬愛してやまなかった祖父の名前を残したい。目を閉じると小さく風が立った。それはいいから、と母は笑うようだった。それは私の勝手な野心だが、母に対する私なりのけじめだった。やっぱり母は笑うだろうけれど、地元に戻って、また私はひとり、報告に行こうと思う。
〈略歴〉
1980年茨城県水戸市生まれ。関西学院大学卒。2021年「カメオ」で第64回群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。
受賞者インタビュー 松永K三蔵
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ソロ登山は文学に通じている
──受賞の連絡はどちらでお待ちになっていたのでしょうか。
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source : 文藝春秋 2024年9月号