受賞のことば 市川沙央
一頭の白い馬が、太陽と会話しながら沙漠を旅する物語。それが十歳ごろに初めて書いた、小説らしき断片のイメージである。書き終えることはなかったけれど、このイメージは頭の中にずっとある。
黒い馬でもよくないか。茶色でも。まだらでも。いま思い返してそんな葛藤の言葉がすぐに浮かんでしまうのは、あれから様々な言葉を摂取し、溜め込んで生きてきた証拠だろう。言葉は言葉を呼ぶのである。
わがままな子どものように何度も何度も叫ぶ。私は小説家になりたいと思ったことなどない、と。白い馬が首をかしげるが、無視して叫ぶ。明日も書けるかどうかわからない、と。
それでも白い馬は沙漠の中央を歩いていく。太陽が語りかけてくるから、次の言葉を探さなきゃならない。
〈略歴〉
1979年生まれ。早稲田大学人間科学部(通信教育課程)卒。2023年「ハンチバック」で文學界新人賞を受賞しデビュー。
「文藝春秋 電子版」では、市川沙央さんのインタビュー映像も公開しています(本サイトのみの特別公開)。記事末尾より、動画も併せてお楽しみください。
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source : 文藝春秋 2023年9月号