受賞のことば 鳥山まこと
自分にしか書けない小説や文章というのはどういうものか。ずっと考えながら書いてきた。その一つの答えが「時の家」だと思う。建築に携わる中でしか見えない景色を言葉にした。体感してきた建築の全てを費やした。ならば出し尽くしてしまった私は次に何が書けるのだろうか。不思議とその不安はない。一歩踏み入った建築と文学の間、その領域に立つと書くべきことがたくさん見えてきた。建築は家だけではない。オフィスビルや公共建築物ならどうなるか。建築は意匠だけではない。構造や設備に目を凝らせばどうなるか。きっとそこに隠されている物語が私をワクワクさせる。
この度は素晴らしい賞を頂き心から感謝しております。これからも力を尽くして書いてゆきます。
〈略歴〉
1992年生まれ。兵庫県宝塚市出身。九州大学大学院修士課程修了。2023年、「あるもの」で三田文學新人賞を受賞。
受賞者インタビュー 鳥山まこと

書くことはすごく面白い
――受賞おめでとうございます。選考会があった昨日はよく寝られましたか?
鳥山 脳がフル回転していたので、午前2時ぐらいまで寝られませんでした。
――今回受賞した鳥山さんと畠山丑雄さんはともに1992年生まれ。お二人とも関西出身です。
鳥山 僕が京都府立大学で、畠山さんは京都大学なので、どこかですれちがっていたかもしれません。これまで何回か一緒にご飯を食べる機会があったのですが、京都の同時代の記憶を共有していて、ほかにも共通点が多かったので、すぐに打ち解けました。
――鳥山さんは現在、兵庫県明石市在住で建築士として働かれています。大学で建築を学んだのですか?
鳥山 そうです。大学では建築を学ぶ学科に入り、卒業後に進学した九州大学大学院では、外部の環境や内部に使われている素材などによって、熱や水分や温度、湿度など、建物の内部環境がどのように変化していくのかを研究していました。
「建築」といっても、意匠設計やデザインを勉強して、いわゆる「建築家」を志す人もいれば、構造設計を目指す人もいますが、僕は設備設計の道に進みました。
――「時の家」は建築を専門的に学び、職業にしている方だからこそ書けた小説だと思いました。建築士としての仕事をするかたわら、小説を書き始めたのはなぜですか?
鳥山 書き始めたのは、社会人になって1年目ぐらいのころでした。1日の時間の大半を仕事に費やし、それを何十年も続けていって、50、60になって辿り着く先が、日本で有数の設計者であるという評価だとして、自分はそれで満足できるのかと自問自答したときに、どこか納得できなかった。
それで自分のなかに建築以外にもうひとつ軸になるものが欲しいと思って、いろいろなことを試すうちに、小説を書くことが自分にはフィットしていることがわかったんです。
芥川賞を読んで純文にハマった
――鳥山さんが自分は小説という表現形式に向いているな、と思ったのは、どんなところですか?
鳥山 一つは毎日コツコツ書き続けて、作品を完成させるところです。昔からコツコツやることが得意でした。でも、長い時間をかけて作業を積み重ねていくことで、芸術作品を完成させるのは、小説に限ったことではありませんね。そう考えてみると、小説の執筆に打ち込んだのは、子供のころの原体験が影響しているのかもしれません。
――それはどんな体験ですか?
鳥山 僕の周囲には変顔や大きな動作で人を笑わせる人がいて、それは自分にはできないなと思っていたのですが、日常会話で絶妙なタイミングで面白い比喩表現をすると、人が笑ってくれることがありました。僕が生まれ育った関西は、言葉でいかにいいところを突いて笑かすかを競っているようなところがあります。そんな体験を通じて、適切なタイミングで適切な言葉を選ぶと、人の心を動かせるという言葉の面白さに目覚めたのかもしれません。
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