サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
全世界の新型コロナウイルスの総量=100g~10㎏
新型コロナウイルス感染症の流行開始から約1年半が経過した。ワクチンの接種拡大に伴って様相は変化しつつあるが、いまだ流行の終わりは見えてこない。ではそのコロナウイルスは、いま世界にどのくらい存在しているのだろうか。その総量を推計した論文が、最近発表された。1人あたりのウイルス数×感染者数で計算すれば簡単にはじき出せそうだが、話はそう簡単ではない。感染者の体格や重症度合い、感染からの日数によって、体内のウイルス量は大きく異なるからだ。
論文を発表した研究チームは、電子顕微鏡での観察データなどから、感染した細胞1つあたり約10万個程度のウイルス粒子が存在すると見積もった。また、ウイルスに感染した細胞数は、1人あたり1万から100万個程度と推定された。肺の細胞数が約1000億個であることを考えると、これは意外なほど少ない数字だ。すなわち1人の感染者の体内には、ピーク時に約10億から1000億個のウイルス粒子が存在する。ここにその重量を掛け算すると、体内の総ウイルス量は100万分の1から1万分の1グラム程度という数字が出てくる。たったこれだけのウイルスが、我々の生命を脅かす。
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source : 文藝春秋 2021年9月号