マンガワン事件 もう一人の被害女性の怒り

秋山 千佳 ジャーナリスト

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人気漫画家は別の女性にも性加害を行っていた

 小学館「マンガワン」に連載を持っていた漫画家の男(50代)が、講師をしていた高校の元生徒の女性(以下「原告女性」)に対し苛烈な性加害に及んでいた、と認定した裁判が注目を集めている。

実は、男からの被害を訴えているのはこの原告女性だけではない。

 筆者は2019年、別の元生徒の堀彩花さん(仮名)に話を聞き、彼女の名前など個人を特定できる要素を伏せて記事にしている。匿名にせざるを得なかったのは、男の卑劣な“口止め”が存在したからだ。

 男の筆名は山本章一。マンガ『堕天作戦』の作者として知られる。北海道芸術高校札幌サテライトキャンパス(以下「北芸」)では、本名で講師をしていたが、便宜上、以下「山本」と表記する。

小学館の対応に批判が集中 ©時事通信社

 堀さんは今回、なぜ北芸で山本の性加害が繰り返されたかを周知するため、声を上げる覚悟を決めた。

「山本がとうとう逮捕され、素性も世に出回りました。実はこの裁判に私も協力していました」

 2026年2月、堀さんから筆者の元に届いたメールの一文だ。

 同月出た裁判の一審判決後の報道により、原告女性が警察に被害を届けて山本が逮捕されたことや、高校在学時の原告女性に「おしおき」と称して性行為を求めたこと、さらに大便を食べさせたり体に「奴隷」などと書いて撮影したりした事実が世間に衝撃をもって受け止められた。

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秋山千佳(ジャーナリスト)

 加えて、小学館の担当編集者が山本逮捕後の和解協議に加わるなど関与し、山本を漫画原作者として別名義で起用し続けていたことに批判が集まった。

 そんな世間の反応を受け、堀さんはメールにこうも綴っていた。

「小学館の漫画家というインパクトが強すぎてそちらばかり取り沙汰されているのですが、講師が性的目的で生徒に近付いていたことを知りながら対策をとらず、ここまで大きな被害を生んだ高校にも責任があると思うので、そこも世の中に知ってほしいと思っています」

『マンガワン』のアプリ

今も感触が蘇ってくる

 7年ぶりに会う堀さんは、取材の場に自転車で颯爽とやってきた。性被害の話を受け止めてくれるパートナーと結婚し、笑顔も、透き通るような肌も輝きを増したようだ。

 しかし実際には今もなお、過去が暗い影を落とし続けているという。

「夫と性行為をする時に山本から触られた時の感触のようなものが蘇ってきて、気分が悪くなってしまうんです。そういう行為をしたのは山本が初めてだったので」

 堀さんは北芸に在学中の2年時から3年時にかけて、デッサンの授業の担当講師だった山本から性被害を受け続けた。後述するが、成人後にも深刻な被害を受けている。最初の取材時、彼女はこう語っていた。

「恋愛経験も性的な知識もない子どもだったので、山本から大人の世界を急に持ち込まれてわけがわからなかったし、はっきり悪事として捉えられなかったというか……」

 最初に山本が接近してきたのは高校1年生の秋だった。校内行事の準備で下校が遅くなり、同級生の女子たちと学校を出ようとすると、決まって玄関付近で山本と鉢合わせた。暗いから車で送っていくという山本の申し出に皆で乗るようになり、時にはカフェレストランで食事をごちそうになることもあった。

 こうしたことが毎週のようにあったため、堀さんは今振り返れば女子生徒の下校を待ち構えていたのではないかと考えるようになったが、当時は山本が生徒相手でも敬語で話す距離感もあって「優しくて面白い先生だな」と捉えていた。

 2年生になったある日、一人で下校しようとしていた堀さんは、玄関先で山本に呼び止められ、同級生たちといる時と同じ流れで送ってもらうことになり、車に乗り込んだ。「ファミレスで食事していきますか」と言われて店に寄り、食事を終えるとさりげない口調で切り出された。「美術館とか博物館に付き合ってくれる人が全然いなくて。こんな美術展が開かれているから、休みの日に一緒に観に行きませんか」

 美術が好きだった堀さんは、無邪気に喜んだ。山本が他の生徒たちと休日にカラオケに行った話などを聞くことがあり、警戒することはなかった。当時は父親が気難しく、母親がよく泣いていたのもあって、家にいたくない気持ちもあったという。

「先生と話していると楽しいし、恥ずかしい話ですが、森の中のメルヘンチックなお屋敷で先生とのんびり暮らせたらいいのに、なんて子どもじみた空想をしたこともあります。要するに現実的な恋ではまったくないのですが、その頃までは仲の良い先生とお出かけできるのが純粋に嬉しかったんです。でも、家にいたくない私の事情を、山本は性的に利用しようとしたのだと思います」

山本章一の『堕天作戦』

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source : 文藝春秋 2026年5月号

genre : ニュース 社会