サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
世界一丸い物体の誤差=10万分の5mm
球というのは自然界において特別な形で、多くの物体が真球に近い形状をとる。たとえば地球は、かなり凸凹のある球体という印象があるが、実はそうでもない。地球は自転の遠心力でやや赤道付近が膨らんだ楕円体をしているが、極半径と赤道半径の差は約21.4キロメートルに過ぎない。地球の直径約1万2700キロに比べれば、約300分の1だ。ヒマラヤ山脈もマリアナ海溝も、その数分の一程度の微かなシワでしかない。地球は、我々が思うより遥かに完全な球に近いのだ。
では、人工物で完全な球に近いものは何だろうか。パチンコ玉はかなりの高精度で、直径11ミリに対し、誤差は1000分の7ミリにとどまる。表面に刻印された文字を除けば、相当に真球に近い。だが、ボールベアリングに用いられる直径1センチの鋼球は、凹凸が1万分の1ミリ以下に抑えられており、文字通り桁違いだ。回転運動を行うあらゆる機械に組み込まれ、摩擦による部品の摩耗や、無駄なエネルギー消費を抑えている。現在のボールベアリングの摩擦があと10パーセント大きければ、世界に原子力発電所が25基も余計に必要になるというから、高精度真球の存在価値は極めて大きいのだ。
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source : 文藝春秋 2021年10月号