柳デザインは心になじむ

巻頭随筆

柳 新一 柳工業デザイン研究会理事長
エンタメ アート

 工業デザイナーだった父・柳宗理が亡くなって、この年末で10年になります。

 父は生前、「プロダクトデザインは100年以上あるべき」と語っていました。その言葉どおり、ニューヨーク近代美術館の永久収蔵品であるバタフライスツールのみならず、柳デザインの多くが今も生き続けています。

 鍋などキッチンウェア関連の近年の売上を見ると、右肩上がりではないものの、下がりもしません。メーカーがメンテナンスもしていて、100年どころか200年でも使える可能性があります。なので買い替えより、新しい使い手が年年増えているようです。これほど売上が安定した商品はそうないのではないでしょうか。

 柳デザインのよさは、「誰のため、何のためのデザインか」という軸がぶれなかったことにあります。

 高度成長期、父の関心は「作る」こと以上に「捨てられる」ことにありました。

 きっかけは、東京・夢の島のゴミ埋め立てをめぐる大騒動だったと記憶しています。デザイナーが生み出したものが最後はゴミになる、大量生産、大量消費は資源を食いつぶし、環境を破壊する……とショックを受けていました。「デザイナーの仕事は罪だ」「これ以上、ものを作っちゃいけない」と言い始めました。

 大学紛争で教授が学生たちの吊し上げにあったというニュースに接した時には、こう漏らしたものです。

「新一、若い人たちから1番吊し上げられるべきなのは、デザイナーだよな」

 環境問題への悩みの深さを垣間見るようでした。

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source : 文藝春秋 2021年10月号

genre : エンタメ アート