古に学ぶ「皇統断絶」への対応
河内春人の『継体天皇』は、余りにもぴったしのタイミングで出版された歴史本である。皇族数確保のための皇室典範改正をめぐる議論の渦中で出たのは偶然だろうが、それにしても。

副題が「六世紀に現れた世襲王権の『始祖王』」とあるように、離れた血筋から第26代天皇となった「世襲的天皇家」のご先祖の謎を解明する。6世紀初め、神武天皇からの系譜は第25代の武烈天皇の死で断絶する。そこで北陸から迎えられたのが、第15代応神天皇の「5世の皇孫」オホトであった。即位時の年齢は、「古事記」23歳、「日本書紀」58歳と親子ほど異なる。その頃の王位継承が「複数の王族集団のなかから相応しい人物を選ぶ慣行」だったので、著者の河内は58歳説を採る。
南北朝時代の北畠親房「神皇正統記」はどうか。親房は「皇統が絶えてしまった状況では、賢者が皇位につくことを天が許す」とし、継体天皇は「我が国中興の先祖」と仰ぐべきと書いた。親政指向の後醍醐天皇の正当化に、河内はラディカリズムの危険を見ている。
それでは、昭和天皇の教科書だった白鳥庫吉(しらとりくらきち)の『国史』ではどう書かれているのか、を確認してみた。教科書では「天位傍系に伝わる」と要約され、「天ツ日嗣は神代の古より一系に定まりてあれば、代隔たり都離れて隠れ坐せる王子[継体天皇のこと]の之を承け給うことありとも、皇位は毫も動揺することなく、益々鞏固を加うるなり」とあった。「皇室の安泰」を強調する講義だ。
河内は歴史学者であるから、文献史料、考古学、朝鮮半島との関係、磐井の乱などから、継体天皇の「実像」をあぶり出していく。継体天皇の時代とは、「日本列島が政治的に統合されて一つになる、その始まり」でもあった。
この時代の歴史として最も詳しい「日本書紀」については批判的に検討されている。そのフィクションが次々と暴かれる。継体天皇は第24代の仁賢天皇の皇女・手白香皇女(たしらかのひめみこ)を皇后とする。「古事記」は「入り婿的な即位」だったとするが、「日本書紀」は即位と婚姻を切り離している。どちらが史実に近いか。その検討にさまざまな知見が動員される。
白鳥博士の弟子・津田左右吉(つだそうきち)は戦後すぐに、「建国の事情と万世一系の思想」を「世界」に発表する。「世界」編集部の期待と異なり、津田は「皇室」を強く擁護した。その論文をいま併せ読むことも勧めたい(岩波文庫『津田左右吉歴史論集』に所収)。6世紀の政治家たちが「直系の皇統」断絶にどう反応したかがわかる。
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