仁徳天皇陵古墳は、世界遺産「百舌鳥(もず)・古市古墳群」を代表する日本最大の前方後円墳だ。これまで世に知られていなかったその副葬品の一部と思われるものが、令和6(2024)年に発見され、さまざまな調査を経て、今年、それが本物であることが判明した。その副葬品が最初に確認されたのは、今から150年以上前のこと。
明治5(1872)年9月7日、仁徳天皇陵古墳の前方部が崩落し竪穴式石槨(せっかく)と長持形石棺、金銅製甲冑、ガラス器、刀剣などが発見された。9月13日には、堺県令の税所(さいしょ)篤が教部卿嵯峨実愛(さねなる)宛に、発見位置を示す略図と共に石槨発見の報告を行い、同年古社寺の文化財調査(「壬申検査」)で京阪に滞在していた宮内少丞の世古延世(せこのぶよ、1824-1876)に対する現地調査依頼の許諾について伺いを立てている。この公文書が送られた6日後の9月19日、教部省から連絡を受けた世古によって、同行者の中から画技に秀でた柏木貨一郎(1841-1898)が派遣され、現地での記録が実現した。柏木の調査成果としては、石槨、石棺の平面図と石槨位置図、石棺側面図、さらに甲冑図を残している。平面図には「明治壬申年九月七日和泉國大鳥郡仁徳天皇御陵南登リ口地崩出現ノ石棺幷石郭ノ圖」とあり、暗く狭い石槨内に安置された石棺の真上からの詳細な実測図を残しており、その技量は並大抵のものではない。甲冑図は、「仁徳天皇大仙陵石郭之中ヨリ出シ甲冑之圖 総体銅鍍金」とあり、横矧板鋲留短甲(よこはぎいたびょうどめたんこう)と小札鋲留眉庇付冑(こざねびょうどめまびさしつきかぶと)が丁寧に記録されており、全体に緑青に覆われた表現がなされるが、各所に黄色の顔料によって鍍金の残存が示されている。
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