「ときめくために生まれた。ときめきをシェアする摩天楼。」
「代官山のロミオ&ジュリエット。」
「東京を駆け抜ける人々へ。東京という都市構造は、まだまだ大人になれると思う。」
この素っ頓狂な文章たちはなにか。マンションの広告コピーである。スペックをわかりやすく伝えるのではなく、雰囲気を詩的に綴ることを優先したこの手の文言を、ぼくは「マンションポエム」と名付け、20年以上に渡り収集・分析をしてきた。金融資本主義のどまんなかで謳われるその「ポエム」から見えてくるのは、高度経済成長期前夜から今に至るまでのぼくらの住宅観と東京という都市の奇妙さである。

言葉がポエム化するのは、そこになにか隠し事があるからだが、マンション広告コピーからは法と経済の生臭さが隠せずにじみ出てくる。そのいきれに辟易してきたときに「東京は千葉でできている」という言葉が脳内に響いた。
千葉県では大量の砂や砂利が採掘され、東京湾岸の埋め立て地造成や都内に建つ建造物のコンクリート材料に使われている。その量は年間約2000万トン。1990年代はこの倍もあった。県別では全国トップクラスの産出量を誇る。高度経済成長期から続けられてきたこの採掘によって房総の山々が消えている。富津市の浅間山などは完全に消滅した。文字通り千葉は「身を削って」東京を作ってきたのである。思い出せば、千葉は船橋で小学生の頃、近所の国道14号線の沿道はなぜかいつも砂っぽかった。あれは房総半島から東京に砂を運ぶダンプカーが落としていったものだったのではないか。
マンションポエムはマンションの広告であるにもかかわらずマンション本体については何も語らない。もっぱら立地をブランド化し称揚する。加えてマンションバブルまっただ中の現在、販売者と購入者が気にするのは利回りと資産性といった項目だ。結果その言葉遣いはふわふわと浮世離れして「物体」がない。しかし当然ながらマンションの足元には地面があり、その躯体は大量のコンクリートでできている。「東京は千葉でできている」は、マンションポエムの対極にある「物体」について根本から考える際にうってつけのキーワードなのである。
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