有名人たちの恐るべき肖像写真集
写真を撮られるのが苦手である。
撮影されるときは、ごまかそうとしてやたら笑顔を作ってしまう。いつもそんなふうだから、私のポートレイトはプロが撮ったものでも友人が撮ったものでも同じようにニカッと笑った顔である。時々、カメラマンに「撮られ慣れていますね」と言われることもあるのだが、「不自然な」笑顔を「自然に」作ることが、撮り手にとっては「慣れている」ように感じられるのかもしれない。そんな時に出来上がってきた写真を見ると「いかにも」な感じ。プロのカメラは欺けないなと悟る瞬間だ。
俳優や芸能人なら話は別だろうが、作家や画家や学者など、滅多に写真を撮られない人たちにとって、ポートレイトを撮られることが「楽しくてたまらない」ことだとは思えない。どんな顔をすればいいのか、立つべきか座るべきか、目線はどこに向けたらいいのかと、そわそわと落ち着かないに違いない。それがその世界で一流の人であればあるほど、ポートレイト撮影などはっきり言ってどうでもよく、苦痛に満ちた撮影時間が早く終わってさっさと仕事にかかりたいと思う人もいるだろう。もういい加減に解放してくれと、怒り出す人もいるかもしれない。
土門拳は、まさにその瞬間を狙ってカメラを据えた。据えたのはカメラばかりではない。腰も肝もとことん据えていた。そうして出来上がったのが本書である。
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source : 文藝春秋 2022年8月号