食を通じてその土地の一部になる
旅の本、なかでも冒険、探検ものが好きで書店の見回りは欠かせません。極北、赤道、海洋など、おっと思う言葉は数々あるが、とりわけ惹かれるのは《秘境》の2文字。
『昆虫カメラマン、秘境食を味わう』、昆虫、秘境というパワーワードが連なる。「秘境食」って何だろう?
山口氏は小学生ノートの定番、ジャポニカ学習帳の表紙写真を40年以上担っておられた方。濃い緑と白線に縁取られた国内外の珍しい昆虫や花々の写真を目にしたことのない人はいないはず。ノートごとに写真が違って、世界には見たことのない虫や花がいっぱいあるんだと教えてくれた心揺さぶるシリーズです。
幼い私が虫の擬態というのを知ったのもこの学習帳。蘭にそっくりのハナカマキリ。ピンクと白の美しくたおやかな姿。でも小さく尖った三角の頭と眼は、ひんやりとした感じで怖かったことを覚えています。
本書は、赤道付近を中心とした自然豊かな国々での撮影の裏側を綴ったもの。いい写真を撮るには現地で生の情報を得るのが肝要で、村長宅や民家に泊めてもらう。寝食を共にし、撮影したいものの話をすることで、口コミで周りの人や近隣の村などから一番新鮮で有益な情報が寄せられる。7年に一度咲く希少植物の開花などは、その真横に簡易小屋を建ててもらってそこに陣取るとか。考えただけでわくわくしますね。
そして食事。《原則として、私は出された物は必ず食べる》のだそうで、現地の食生活が本当に興味深い。サゴヤシの澱粉に熱湯を加えて練った「パペダ」、塩とトウガラシで味付けした魚のスープ、トウガラシ、クミン、ウコンなどのスパイスでヤクの肉を炒めたもの……。タイ北部では1年間の滞在で、毎晩近所の人たちが家に招いてくれたため自分で夕食を作らなかったとか。
カンボジアでは、外国人宿泊禁止のところで地元民の宴会に参加。この宴はお酒から料理、デザートまでウチワヤシという植物が使われているものだったそうで、この食材をいかに大切に扱い、負担をかけずに恵みをいただいているのかということもつぶさに観察できたと語っておられます。それぞれの土地の気候環境に合った生活をどっぷり体験することで、自分もその土地の一部になる。そうして初めて撮影に取りかかれるという信念でしょう。
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