吉田戦車『出かけ親』のサブタイトルは「漫画家 屋外活動覚え帳」とある通り、日々の散歩で見つけたこと、目撃した人、折々の思索が綴られ描かれていくエッセイ漫画です。この新刊はシリーズ第三弾。コロナ禍中、漫画誌に連載されたものですが、いややっぱり面白い。
カワウソの面影探訪、イカっぽい遊具探し……ああ、なんとちまちましたフィールドワーク! へえ、しっぽが地面についているのは「昭和のティラノサウルス」なのね。
吉田作品とは『伝染(うつ)るんです。』が出合いで、連載開始が1989年だから、私はまだ14歳だったのか! としみじみ。それから30年余り、同時代の作家として常に「最新作」に触れてきたわけです。最も感嘆するのは全くブレない作品像、というか吉田戦車像。ふざけているのかいないのか、とても真面目で、でも作品は実に奇妙。しかし溢れ出る善人感、律儀さ。乱暴を承知で申せばギャグ漫画家の「くせに」。
そう思うのは私だけではないわけで、たとえば編集担当者であった江上英樹さんはこう書かれています。「吉田さんのその常識的な好青年ぶりは、群を抜いていた(略)。『悪いことは悪い』とか『晴れた日は気持ちがいい』とか、そういう常識極まる態度が、むしろ空恐ろしい」(『文藝別冊』)
そうなんです。晴れた日は気持ちがいいと素直に書けて、それで笑わせられる人なんですよね。
観察眼に長けた、目のいい人。一杯のそばの海苔の位置を眺めて、そば屋さんの心根にまで行き着く人。娘や妻(漫画家の伊藤理佐さん)はもちろんですが、そもそも人間の営みを丸ごと愛しく思っている人。
本作では、自らへのツッコミ役に「心のネコ」を脇に据えて、一人語りに磨きがかかってきました。前シリーズ『まんが親』(全5巻)とともに、家族、特に娘さんの成長ぶり、変化の様もとても頼もしくリアルで、同じ「出かけ親」である私にとっても全く他人事ではありません。
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source : 文藝春秋 2023年3月号