2023年1月、東アジア最大の蛇行剣、比類のない鼉龍文(だりゅうもん)盾形銅鏡が富雄丸山古墳から出土したニュースは各紙で一面を飾り、テレビ等でも広く報道されました。
私は小学校6年生のころ、高松塚古墳を授業で学び、明日香村をひとり自転車で探訪する子供でした。当時の夢は全国ニュースになる発掘を手がける考古学者。一部を除き、そんな夢は無理だろう、とよく言われたものです。
それでも、関西大学へ入学し、奈良県内の発掘調査へ参加する学生生活を送りました。子供時代に抱いた夢とは裏腹に、実際の発掘調査は地道な作業の積み重ねです。しかし、考古学の本質的な魅力にとりつかれていったので、すっかり子供時代の絵空事は忘れていました。
卒業後は運良く現職を得て、奈良市内の発掘調査、研究成果も発表しつつ、徐々に周りからも考古学者と認められるようになってきました。
2018年度からは、富雄丸山古墳の学術調査で担当をまかせていただけるようになりました。なかでも2020年度は、秋に陵墓参考地でもあるウワナベ古墳を宮内庁・奈良県とともに同時調査し、冬に富雄丸山古墳を発掘するという古墳漬けの日々。いずれも成果が大きく報道され、これを越える経験はもうできないだろうし、高松塚古墳ほどではないけれど、子供の頃に描いた夢は実現したと思っていました。
ところが2022年11月、富雄丸山古墳第6次調査で人生がまた動きます。造出(つくりだ)し(古墳の突出部)で粘土槨(ねんどかく)と呼ばれる埋葬施設が未盗掘の状態で姿を現したのです。学術調査のため、未盗掘であれば保存するのが通例です。しかし、埋葬施設の調査は近年減少し、調査技術の継承ができなくなる恐れがあることから、文化庁等の助言を経て調査を進めることになりました。
それでも残せる遺跡を壊すことに相当な葛藤、プレッシャーを抱えて内部に残る木棺を覆う粘土にメスを入れはじめた日、のちに国宝級とも称される蛇行剣の片鱗がすぐに見えはじめました。当初はただの鉄器だろうと思っていましたが、掘れども端が出ず、1m、2mと長くなっていきました。しかも蛇のように曲がりくねった剣は神話に登場する草薙剣を彷彿させます。現地視察へお越しいただいた専門家も、1本の蛇行剣かもしれないとの私の説明に「それはないだろう」と回答される方が多かった印象です。日本最大の倍以上長い剣があるはずがない。当然の見解で、自分がおかしいのだと自らに言いきかせていました。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2024年8月号