柳宗悦(むねよし、1889〜1961)は、大正15(1926)年に無名の人々が作った生活用品に用の美を見出す「民藝運動」を始めた。孫の柳新一氏が、その根底に流れる柳の精神について語った。
「宗悦について聞かせて下さい」。そういわれるたびに、何を話せばいいのか、毎回答えに窮してしまいます。柳宗悦は民藝運動の創始者であるだけでなく、英国の詩人ウィリアム・ブレイクの研究者、雑誌『白樺』の創刊メンバー、宗教哲学者など様々な顔を持っており、そのすべてが地続きに繋がっているからです。
祖父としての宗悦の記憶は、小学5年生の頃までしかありません。私のことを「新ちゃん」、「新一」と呼ぶ優しい祖父でした。一方で、時折何か考え事をしているときは、非常に厳しい顔をしていたのを覚えています。
宗悦はそれまで下手物(げてもの)と呼ばれてきた市井の人が作った生活用品を「民藝」と名付け、全国各地の民藝品を発掘・調査し、蒐集する運動を始めます。とはいえ宗悦自身に民藝品を大量に購入できるほどの資金はなく、アルト歌手だった妻・兼子が公演で得た収入頼み。兼子はそんな夫に呆れながらも、宗悦が購入を迷うときは「買えばいいじゃない」と助言する、かっこいい祖母でした。
妻から金銭面の援助を受け、民藝品蒐集のため各地を巡る……そう言うと優雅に聞こえますが、当時の道路状態で全国を回りながら、創刊した雑誌『民藝』などで文章も書くわけですから、精神的にも肉体的にもエネルギーを消耗します。さらに宗悦は蒐集に留まらず、どうすれば売れる民藝品になるか作り手にアドバイスしたり、民藝品を購入できるような場を作ったりと、制作から販売までサポートするプロデューサー的役割もしていた。そんな骨が折れる民藝運動に、なぜここまで力を注げたのでしょうか。
そんな根本的な問いを、宗悦に直接訊くことは叶いません。またその答えを詳細に導き出そうとするならば、前述のように彼の多岐にわたる活動にも触れなければならない。
とはいえ、著書や資料を読み、孫としての記憶を振り返ってみて、ひとつ考えられることがあります。
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