全国を放浪しながら数々の貼り絵を残した画家・山下清(1922〜1971)。『宿帳が語る昭和一〇〇年』を刊行した温泉エッセイスト・山崎まゆみ氏が、温泉と山下清の知られざる関係を紹介する。
窓から光が燦燦と射し込み、大浴場を明るく照らす。湯船に注がれたお湯は輝き、壁画が映り込んでいた。その絵には、紅葉鮮やかな山々に囲まれた沼にボートを浮かべる人、散策する家族連れと、人々が自然とたわむれる楽しさが表現されていて、左下に黒い文字で「山下清」と記されている。
群馬県みなかみ町に湧く上牧(かみもく)温泉「辰巳館」の大浴場「はにわ風呂」の壁面は、天才画家・山下清の貼り絵を再現している。
私はライフワークとして、昭和のスター達の温泉宿での滞在秘話を綴っており、その取材の一環で「はにわ風呂」に出会った。
清の放浪記『日本ぶらりぶらり』には、「30になるまで温泉というものを知りませんでしたが、知ったら大変すきになってどこへいっても入ります」と記されている。
道後温泉では女湯に入りたいと希望するが止められ、「どうして女の入っているところをみてはいけないのですか」と食い下がった。「女のお尻のよくみえるのも温泉ですが、ぼくの絵はこのところやっと色気がでてきたといわれていますが、それは日本中の温泉で女の人の乳やお尻をたくさんみたからでしょうか」。清が2年半におよぶ全国放浪を始めたのは昭和26(1951)年。当時の温泉と言えば混浴が当たり前。清の画力は温泉で磨かれていたのだ。
それにしても、温泉好きとはいえ、なぜ辰巳館の大浴場の壁画に関わったのか。
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source : 文藝春秋 2024年8月号