著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、小島よしお(お笑いタレント)です。
久しぶりに実家に帰って当時の父の選挙ポスターを見て驚いた。
父はまだ35歳だった。今の自分の5つも下。ポスターの父の満面の笑み。
そういえば、思い出す父の顔はいつも笑っている気がする。
父は国会議員選挙に計6回立候補しているが全て落選している。言葉にするとあっけないけど毎回相当な労力があったと思う。母が僕を里帰り出産(久米島)したのも選挙運動が忙しい影響だ。ストレスからか父の眉毛は抜け円形脱毛症にもなっていた。
それでも父は笑っていた。
中国から謎の液体(毛生え薬)を取り寄せ硬いブラシで患部をゲーム感覚でポンポン僕に叩かせてみせたり眉毛を自分で足しながら「その辺の女子高生より描くの上手いぞ俺は」と鏡の前で戯(おど)けていたりした。
そのあと政界からは身を引いて語学学校の校長を20年近く。校長といえば聞こえはいいが社員は1人の零細企業。調子は泣かず飛ばずで来年こそは軌道に乗ると毎年言っているがまだのっていない。
それでも父は笑っていた。
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source : 文藝春秋 2021年9月号