日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★みずほにつけるクスリ
「最早、坂井社長の辞任は避けられないのでは」。金融関係者らの間ではこんな見方が大勢になりつつある。
今年に入って6回ものシステム障害を連発させたみずほフィナンシャルグループ(FG、坂井辰史社長)。2月に発生した最初の障害では全国5395台のATMのうち7割強が最長約30時間にわたってダウン。5度目となった8月20日のトラブルでは傘下のみずほ銀行とみずほ信託銀行の全店で一時、窓口での入出金や振り込みなどの取引が不可能に。一部の海外送金が滞るなど決済機能にまで影響が及んだ。
しかも今年2、3月のシステム障害を受けて再発防止策を取りまとめ、危機管理体制やITシステム統制力の強化などに乗り出していたばかりだった。「単なる不始末では済まされない」として金融庁幹部の一人も呆れ返る。
これまでは「坂井社長留任はグループの総意」だったみずほ内部でもポスト坂井に向けた人事観測が飛び交いはじめた。事情通によると、後任として有力視されているのは執行役副社長の今井誠司氏や執行役の菊地比左志氏ら。とはいえ、いずれも決め手を欠くのが実情らしい。
発足以来、日本興業・富士・第一勧業の旧三行による内部抗争に明け暮れてきたみずほ。優秀で能力の高い行員ほど首脳陣から疎まれ、警戒されて枢要ポストから外されたり、グループ外に“追放”されたりしたので「人材が払底している」(みずほ銀OB)。中堅・若手行員からは「外部からトップを招聘しては」といった声も漏れている。
そんな中、当局筋で囁かれているとされるのが「再分割」案だ。みずほ銀をまず個人や中小企業を取引対象としたリテール部門と大企業向けなどのホールセール部門に切り分ける。そのうえでリテールをりそな銀行に、ホールセールを新生銀行に引き継がせるというもので、事実上の“解体”だ。「ついでにみずほ信託銀も信託併営のりそなに任せればいい」とのプランも浮上している。
「Oneみずほ」を掲げて一体感醸成に腐心してきたみずほだが、上層部に蔓延る旧行意識の根はいまなお太く深い。断ち切るには大ナタを振るうしか処方箋はなさそうだ。
坂井社長
★「三方一両得」の結末
首都・東京の地下鉄網を担う東京メトロ(東京地下鉄株式会社、山村明義社長)が株式上場に向けて動き出した。赤羽一嘉国土交通相と小池百合子東京都知事は7月15日、オンラインで会談し、国と都が保有する株式を半分ずつ、同時売却で合意した。
「JR九州が政治献金をするために100%株式を公開した際、外資に株を買われ、『赤字の鉄道を止めて不動産などで儲けるべし』と突き上げられている。これを教訓にして、とりあえず半分の売り出しとなった」(自民党の運輸族議員)
実現すれば2016年のJR九州(九州旅客鉄道、青柳俊彦社長)以来の大型IPO(株式公開)となる。
東京メトロは、2004年に営団地下鉄から民営化された。国の保有株は2027年度までに売却して東日本大震災の復興財源に充てることが決まっていた。これまで東京メトロの上場が何度も話題にのぼりながら立ち消えになったのは、株主である国と東京都の利害調整が難航したためだ。コロナ禍で都の財政状況が悪化したこともあって、急転、決着した。
天下り先としてトップ以下を送り込んできた国は、民営化しても国交省が許認可権を持ち続けるので、利権を確保できる。
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source : 文藝春秋 2021年10月号