「ベルばら」だけではない女性たちの革命
私は10歳のとき、連載中の「ベルサイユのばら」を貪り読んでいた。フランス革命などわかるはずもない少女は、抗えない運命に巻き込まれて断頭台の露と消えた王妃マリー・アントワネットや、男装の麗人オスカルと彼女の従者アンドレの悲恋に、ただ胸をときめかせるばかりだった。50代になって「ベルばら」を読み返してみると、少女時代のときめきがそのまま蘇ると同時に、ようやく革命の意味を理解し、身分にかかわらず人生においてその人を支えるのは「愛」なのだと悟った気がした。それ以外にも、実在の人物の大胆な脚色、フランス革命という骨太な史実に裏打ちされた大河小説的資質などに深く共鳴した。もちろん、オスカルというフィクション・キャラクターの創出がこの作品を傑作とするための決定打となっているが、そこには不世出のクリエイターとしての池田理代子の天才を疑う余地はない。
それにしても、半世紀も前の日本で、少女漫画誌という非常に限られた読者(多くは10代の少女たちだったはずだ)以外には訴求力がなかったであろう媒体で、池田理代子はまったく新しいテーマであるフランス近代史に挑んだわけだが、何が彼女をそうさせたのか。その謎に答えを与えてくれたのが本書である。
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source : 文藝春秋 2021年10月号