評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します
緑のニューディール
今夏も豪雨災害が日本各地で発生した。地球温暖化の影響が指摘されている。
温暖化は本当に起きているのか、温室効果ガスがその原因なのか……。明日香壽川『グリーン・ニューディール』(岩波新書)はこうした“懐疑論”を丁寧に論駁することから書き出され、温暖化防止のために再生可能エネルギーシフトを急がねばならない必要性を訴える。
しかし、その一方で経済活動の停滞も許されない。そこで再エネ利用のインフラ整備への積極投資を行い、経済構造自体を変革しようとする政策が書名となったグリーン・ニューディールだ。“脱成長コミュニズム”などグリーン・ニューディールに批判的な最近の思潮にも眼配りし、一貫して対話的に議論を積み上げる筆致には説得力を感じる。
ただ個人的に気になったのはグリーン・ニューディールという命名法それ自体だった。ルーズベルト大統領時代の本家ニューディール政策は総力戦体制を築く一種のファシズムだったと考える歴史学者もいる。緑のニューディールは地域ごとの気候・文化的差異や個々人の生活事情を無視して一律の行動を強制する環境ファシズムとなってはならない。地球規模の環境危機への問題意識を共有しつつ、自分たちの生活を守るべく繰り広げられる多彩な活動が緩やかに繋がってこそ持続的な力を発揮するはずだ。
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source : 文藝春秋 2021年10月号