今年は大瀧詠一さんのアルバム『ロング・バケーション』が発売されて40年。ジャケットのイラストを描いた私もいくつか取材をうけましたが、私からすると“ロンバケ”から、じつは42年なのです。
1979年にCBS・ソニー出版から写真家の浅井慎平さん、イラストレーターの湯村輝彦さんと、夏をテーマにしたアートブックを3冊、同時発売することになった。このとき出版社の紹介で、私の本に文を書くことになったのが大瀧詠一さんです。
私はレコードを買う金を稼ぐためにイラストを描いていたほどの音楽好きでしたが、ソウル・ミュージックばかり聴いていたので、それまで大瀧さんのことは知りませんでした。初めて顔を合わせたのは出版社の会議室。「どれくらいレコード売れているの」と尋ねたら、「3万から4万」という。「それで食えるの?」など話をしたものです。
その本のタイトルが50年代に活躍したアメリカの歌手リッキー・ネルソンの曲名からとった『A LONG V-A-C-A-T-I-O-N』。レコードの2年前に発売され、7刷までいくほど売れました。
ただ、レコードには、私はまったく関わっていません。あのアートブックをモチーフにレコードを制作しているとは、歌手のシリア・ポールから聞いていましたが、ジャケットに自分の作品が使われていることを知ったのは、アルバムの発売後です。
ジャケットのプールサイドのイラスト、じつはオリジナルを含めて4点あるのです。もともと大阪のワインメーカーの広告用に描いたもので、原画は知人にあげてしまいました。ところが『ロング・バケーション』が大ヒットしたため、作品展のたびに「あの作品を展示したい」と要望があるので、さらに3点、描いた。そのうち2点は売れましたが。後に描いたものはパラソルの角度や、プールの水面の模様が、最初のとは微妙に違います。
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source : 文藝春秋 2021年11月号