雨の日も風の日もあなたを優しく包み込み、共に育ち、いつしか至極の風合いを醸し出す……。そんな一生モノのコートとともにある人生は、この上なく豊かである。
写真=渡辺修身、スタイリスト=四方章敬
Hermès(エルメス)
フランス語では胡椒色と表現される、趣あるカーキ色のゴート(山羊)レザーを使った、フーデッドコート。そのしなやかな肌触りや、袖に施された手縫いステッチに象徴されるエスプリの効いたデザインは、エルメスだけが辿り着く境地。コート¥2,046,000、ストール¥163,900/以上エルメス(エルメスジャポン☎03-3569-3300)
フランス俳優が体現した コートのダンディズム
狩猟や乗馬といったスポーツ。軍隊における任務。そして格調高き儀式……。主に19世紀後半から20世紀前半の英国で、ひとつの目的を遂行するためだけにつくられたコートという洋服に人々は魅了され、その装いは街へと広まっていく。そして1960年代のフランス映画全盛期に、その美意識は完成を見る。ジャン・ギャバンやベルモンド、アラン・ドロンといった俳優たちがこぞって着こなす、くたびれたコットンコート。その哀愁漂う姿を通して、当時の若者たちは、コートという洋服が人間の生き様を象徴する存在であることを、思い知ったのだ。
昔と較べれば冬の街もだいぶ暖かくなったが、コートだけは昔のように一生愛せる、暖かで丈夫なものを選びたい。多少なじむのに時間がかかっても、いつしかそれは自分の分身のような、かけがえのない一着に育つだろう。
コートとは、生き様の象徴である
Alain Delon(アラン・ドロン、写真上)
コートの襟を立てた姿が世界一サマになる俳優、アラン・ドロン。アクアスキュータムのトレンチコートを着た『サムライ』もよいが、40代で演じた『パリの灯は遠く』の、シックなステンカラーコート姿も素敵 ©Newscom/Aflo
Jean-Paul Belmondo(ジャン=ポール・ベルモンド、写真下)
精悍さが魅力のアラン・ドロンとは反対に、よれよれのコート姿が実に似合っていたのが、ジャン=ポール・ベルモンド。中でも『いぬ』で見せた男らしくも退廃的な軍用トレンチコートの着こなしは伝説的だ ©Giancarlo BOTTI/gettyimages
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source : 文藝春秋 2021年12月号